★ゼラニウム
ゼラニウムは南アフリカ原産のアオイに似た宿根草で,
ヨーロッパの窓辺などでよく見かける花です。
18〜19世紀のヨーロッパで品種交配が進み,
葉にバラやレモン,ミントなどの香りがある
ニオイゼラニウムもつくられました。
一般にゼラニウムの花には独特の香りがあって,
虫が室内に入るのを防ぐといわれています。
日本には江戸時代末期に入ってきて,
葉がアオイに似ていることから
テンジクアオイと呼ばれていました。
イスラム教に伝わるゼラニウムの物語です。
予言者マホメットはアラーの啓示を受けて布教の旅を続け,
ある夏の暑い日に小さな小川にたどりつきました。
マホメットは汗と埃でまみれた衣服を脱いで,
きれいな小川の流れですすぎ,
水辺で咲いているアオイの花に濡れた衣服をかけました。
そして衣服が乾くまでの時間を,
マホメットはそばの木陰で一休みすることにしました。
すこしまどろいだ後,
アオイに干していた衣服はすっかり乾いていました。
マホメットが乾いた衣装を手にとると,
それまで薄紫だったアオイの花は
彼の強い意志と行動力を反映して,
香り高い真紅のゼラニウムに姿を変えました。
アラーの神がマホメットの徳を称えて,
この世にゼラニウムを生み出したのです。
ゼラニウムの花言葉は『愛情』です。
★マツ(松)
マツは高さ40mにもなる常緑高木で,
アカマツは幹が赤く,葉が細くて山地に多く見られます。
また,クロマツは幹が黒くて,海岸に多い傾向があります。
花は4月に咲き,
新しくのびた枝先につきます。
マツの語源には,
この木に神が天降るのを「待つ」という説と,
葉が二股の「股」が転じてマツになったという説があります。
ギリシア神話にあるマツの話です。
偉大な神々の王であるゼウスの母・レアが,
ひとりの羊飼いに恋しました。
しかし羊飼いには恋人がいたため,
レアには心を寄せませんでした。
嫉妬に狂ったレアは羊飼いをマツに変え,
自らの恋に終止符を打ちました。
しかし,レアはいつまでも
羊飼いのことを忘れることができません。
レアは羊飼いのマツのそばで,
嘆き悲しみながら,日々を過ごすようになりました。
そんな母の姿を見たゼウスは,
レアの大切なマツがいつまでも変わらないようにと,
マツを常緑樹に変えてしまいました。
マツの葉がいつまでも緑で,
母の想い出が変わらないようにと……。
マツの花言葉は『不老長寿』です。
★セツブンソウ(節分草)
セツブンソウは関東以西の本州に分布し,
山地の木陰などに生える多年草です。
花は純白で直径2センチほど,
まだ寒い早春の野山に彩りを添えてくれます。
日本特有の花ですが,
最近はあまり見かけなくなりました。
夏になると花も葉も,
地上からすべて姿を消して,
地中で翌春をじっと待っています。
セツブンソウが登場する童話です。
ある小さな町に
可愛い少女とお母さんが2人で暮らしていました。
少女のお父さんは1年前に病気で死んでしまい,
今はお母さんがひとりで,一生懸命働いています。
少女はお母さんと約束しました。
泣いていると天国のお父さんが悲しむから,
ふたりとも泣かないようにしようね……と。
今日は天国のお父さんの誕生日です。
夜,お母さんと庭に出て,
星がいっぱい輝いている夜空を見上げました。
あの星のどこかにお父さんがいると思うと,
少女の目からはたくさんの涙があふれ,
ポトポトと落ちていきます。
少女は,隣りのお母さんをこっそり見ました。
お母さんも目に涙をためていました。
夜が明けてきました。
少女とお母さんは,まだぐっすりと眠っています。
昨日の夜,少女の涙が落ちたところには,
一輪の真っ白いセツブンソウの花が咲いていました。
セツブンソウの花言葉は『ほほえみ』,『気品』です。
★白梅
梅は桜とともに,
日本人に最も愛されてきた花木です。
原産地の中国でもとても親しまれ,
李白や王維の詩にも盛んに登場します。
早春に清楚な白花を凛と咲かせ,
ほのかに甘い香りを運んでくる白梅は,
古くから人々を魅了してきました。
万葉集にある大伴家持の有名な歌です。
わが園に 梅の花散る ひさかたの
天(あめ)より雪の 流れくるかも
− 雪? ああ,梅の花びらか。
まるで空から雪が降ってくるようで きれいだなあ −
白梅の花言葉は『気品』です。
★ネコヤナギ(猫柳)
ネコヤナギはカワヤナギの仲間で,
高さは2〜3mになる枝の多い落葉低木です。
分布は北海道から九州で,
平地にある渓流の水辺などに自生しています。
春まだ浅いころ,葉に先立ってふくよかでやわらかな
銀白色の尾状の花穂(かすい)をつけます。
ネコヤナギの名は,この花穂に密生する
絹のような毛を猫の毛に見立てたもので,
独特の雰囲気が好まれて,春の生け花の花材によく使われます。
万葉集の歌(作者未詳)です。
山の際(ま)に 雪は降りつつ しかすがに
この河楊(かはやぎ)は 萌えにけるかも
− 山の方では雪が降っているのに
この河原はもう春です。
ほら,猫柳がもうこんなに芽を吹いていますよ。
ふんわりとして,ほんとうに猫みたい。 −
ネコヤナギの花言葉は『自由』です。
★フクジュソウ(福寿草)
フクジュソウは日本各地の山野に自生しますが,
やや寒冷な地を好むため,北日本でよく見られます。
福と寿をつらねた縁起の良い文字づかいのため,
正月のお飾りに欠かせませんが,
実際の花期は2〜4月です。
旧暦の正月ころに花が咲くので,
元旦草ともいいます。
アイヌに伝わる話です。
天界に絶世の美人と評判の
クナウという女神がいました。
父神はクナウの婿を探していましたが,
ついにモグラの神をクナウの婿に決めました。
しかしクナウはモグラの神に嫁ぐのを嫌い,
ついには父神の逆鱗に触れてしまいました。
怒った父神は,クナウを野に咲く一輪の花,
フクジュソウに変えてしまったのです。
フクジュソウの花言葉は『永久の幸福』です。
★ソウシジュ(相思樹)
今日,海辺に面した素敵な山道で,
レモン色に輝く美しい花に出会いました。
その花はソウシジュ(相思樹)です。
ソウシジュは台湾などから日本に移入された,
高さは15mにもなるマメ科の樹木です。
庭木や街路樹に使われ,
おもに沖縄方面でよく見ることができます。
ソウシジュにまつわる中国の物語です。
春秋時代,大国・宋の王は
暴君として名が知れた康王でした。
康王は侍従である韓憑の妻に惚れ込み,
韓憑から妻をとりあげて,自分の側室にしました。
そして康王を恨む韓憑を無実の罪に陥れ,
追い込まれた韓憑は自ら死を選びました。
韓憑の死を知った妻は嘆き悲しみ,
かねてから用意していた腐った着物を着て,
康王とともに城壁見物に出かけました。
妻は城壁の最上部から身を投げ,
王の側近があわてて妻の着物の袖をつかんだのですが,
腐った着物はすぐに破れてしまい,
妻はそのまま地上に落ちて死んでしまいました。
妻の遺書には,次のように書かれていました。
「どうか,私の遺骸を夫とともに埋めてください。」
怒り狂った康王はこの願いを無視し,
わざと,韓憑の墓の向かいに妻の墓をつくりました。
数日後,2人の墓の端から,
それぞれ一本の木が生えはじめました。
すぐにひと抱えもある大きな木に成長し,
たがいに幹を曲げて寄り添い,
二本の木は,まるで一本の木のようになりました。
宋国の人々は二人のことを哀れに思い,
この木を「相思樹」と名づけました。
「相思」という言葉は,
この話からつくられたと言われています。
ソウシジュの花言葉は『秘密の愛』です。
★もも(桃)
ももは中国原産の樹木で,
ペルシャを経由してヨーロッパにも伝えられました。
そのため,「ペルシャの林檎」と呼ばれています。
日本では有史以前には伝わったといわれていますが,
詳しくはよくわかっていません。
また,ももは古代から悪霊を払う力があるとされ,
霊木として大切にされてきました。
万葉集にある大伴家持の有名な歌です。
− 春の苑 紅(くれない)にほふ 桃の花
下照(したで)る道に 出(い)で立つ少女(をとめ) −
春の園,紅に輝く桃の花が咲き誇っています。
桃の花で紅に照り映える道に,少女がたたずんでいます。
ももの花言葉は『気だてのよい娘』です。
★スミレ
スミレの仲間は温帯に広く分布する野草で,
日本でも各地でふつうに見ることができます。
花の形が大工の墨入(すみいれ)に似ているところから,
スミレという名がつけられたといわれています。
ヨーロッパでは誠実を象徴するスミレは,
美を代表するバラや威厳を表すユリとともに,
大切の扱われてきました。
モンゴメリの『アンの青春』から紹介します。
アンとダイアナ,それからプリシラ,ジェーンの4人で,
春の森にピクニックに出かけました。
アンが明るい声が聞こえます。
− あら,みんな,見てごらんなさいよ。
あんなにすみれが咲いているわ。 −
内気なプリシラが小声でいいました。
− もし,キスが目に見えるとしたら,
すみれのようなものではないかと思うわ。 −
スミレの花言葉は『誠実』『謙遜』です。
★ミツマタ
ミツマタは中国原産の落葉低木で,
春に黄色やオレンジ色の小さな花をたくさんつけます。
枝が3本に分かれることから三又と名づけられ,
樹皮は和紙の原料になります。
柿本人麻呂歌集にある有名な歌です。
『春されば まづ三枝(さきくさ)の 幸(さき)くあらば
後(のち)にも逢はむ な恋(こ)ひそ吾妹(わぎも)』
− 春になったら,まず咲く三枝。
その名のように無事であったなら,また,いつか会えるでしょう。
別れるのは悲しいけれど,いとしい人よ,あまり恋に心を苦しめないで −
ミツマタの花言葉は『永遠の愛』です。
★ヤエザクラ(八重桜)
日本の山野には10種のサクラが自生し,
それらの自然交配種やそれぞれの変種が多数見られます。
そして,野生サクラによって約300ほどの園芸品種が生み出され,
これらはサトザクラ(里桜)と呼ばれています。
ヤエザクラの多くはこのサトザクラです。
日本に古くから伝わるヤエザクラの話です。
昔,森の中でウサギを狙っていた若い狩人が,
山奥の深い森に迷い込んでしまいました。
狩人が森の中をさまよっていると,
目の前に見事に咲いたヤエザクラが現れました。
ヤエザクラの下には美しい娘がいて,
甘い声で狩人にささやきました。
「私の願いを聞いてくれるのなら,帰る道を教えてあげます。」
娘は狩人に帰る道を教えたあと,
狩人に向かって再びささやきながら消えていきました。
「明日,必ず私に会いに来て。」
狩人は夢を見ているようにぼーっとしていましたが,
我に返って,森の中から一目散に逃げ出しました。
結局,翌日狩人は,
あの娘に会いに行きませんでした。
その数日後,狩人は村から消えてしまいました。
心配した村人たちが探したところ,
狩人は散りゆくヤエザクラの花びらの下で死んでいました。
ヤエザクラの花言葉は『すぐれた美人』です。
★デージー(ひな菊)
デージーは早春から咲くキク科の花で,
ギリシア神話の時代からヨーロッパで栽培されてきました。
朝が来て太陽の光を受けると花が咲き,
日が沈んだり曇りの日には花を閉じることから,
「デイズ アイ(日の眼)」と呼ばれ,
それが語源でデージーになったといわれています。
日本には明治時代に渡来して,
小さくて可愛いキクという意味で「ひな菊」と呼ばれました。
デージーにまつわるギリシア神話を紹介します。
恋の使者・エロスはひとり物思いにふけって,
ときどき大きなため息を吐いていました。
これを見た母のアフロディーテは,
エロスに恋をさせることを思いつきました。
そして,エロスを地上に降ろしたのです。
地上に降りたエロスは美しいプシュケと出会い,
二人はたちまち恋に落ちてしまいました。
しかし人間であるプシュケとの恋は,
次第にエロスにとって大きな心の負担となり,
とうとうエロスはプシュケと別れることになりました。
エロスは天に帰るとき,
二人が楽しく過ごした思い出の牧場に,
星をひとつ置いていきました。
すると,星はデージーに変わって,
牧場一面はデージーのお花畑になってしまいました。
デージーの花言葉は『美人』『希望』です。
★ボタン(牡丹)
ボタンは中国が原産の低木で,
日本には平安時代に伝わったといわれています。
大輪で豪華な花を咲かせることから,
「百花の王」「万花の王」と呼ばれてきました。
中国に伝わる鏡泊湖(きょうはくこ)の物語です。
中国の山里に,牡丹という少女が祖父と二人で住んでいました。
牡丹がすむ村では
冬になると氷の龍が現れ,村人たちは長い間苦しんできました。
そこで,祖父は氷の龍を倒す方法を考えました。
それは,これまで苦労して集めた砂金で小さな鏡をつくって磨き上げ,
光り輝く鏡で日光を集めて,氷の龍を倒すというものでした。
祖父は砂金で鏡をつくり,
牡丹は12年間,ひとりで鏡を磨き上げながら,
氷の龍を倒す機会を待っていました。
ある日,ひとりの若者が村にやってきて,
牡丹のあまりの美しさに惹かれ,求婚しました。
牡丹は若者に氷の龍の話をして,
若者が氷の龍を倒したら求婚を受けいれる約束しました。
若者は鏡を持って,勇んで氷の龍を討ちに出かけましたが,
この企てを知った氷の龍が村にやってきて,
牡丹の祖父を凍死させてしまいました。
牡丹は村から逃げて,すぐに若者の後を追いました。
そして若者に追い付くと,氷の龍が襲ってきた話をしました。
すると若者は,急に怖くなって逃げ出しました。
若者のあまりの不誠実さに牡丹は深く悲しみ,
その目からは涙があふれ出して,その涙が集まって湖になりました。
しばらくして,行方不明の牡丹を探しに来た村人たちは,
たくさんのシャクヤクの花の中で,
ひときわ大きくて美しい花を見つけました。
村人たちは,この花を牡丹の生まれ変わりだと思って
牡丹と名付けました。
また,牡丹が磨いた鏡は涙の湖の底に沈み,
月夜の晩になると湖の底で光るのが見えました。
やがて村人たちは,この湖を鏡泊湖と呼ぶようになりました。
ボタンの花言葉は『はじらい』『富貴』です。
★リンゴ(林檎)
リンゴは中央アジアやヨーロッパに原種があり,
それらから栽培種がつくられて,
ギリシア時代にはすでに栽培されていました。
日本には鎌倉時代に渡来した中国原産のワリンゴがあり,
ヨーロッパのリンゴはセイヨウリンゴと呼ばれていました。
林檎を薄く切って,
それをナイフの先に刺して左肩ごしにも持ち,
鏡に向かって髪をくしでとかすと,
鏡の中に未来の夫があらわれて,
リンゴに手を伸ばすという言い伝えがあります。
有名な旧約聖書の物語です。
神はエデンの園にすむアダムとイヴに命じた。
− どの実を食べてもいいが,
善悪を知る木の実だけは食べてはいけない。 −
ある日,ヘビがイヴをそそのかした。
− あれは知恵の実だ。食べてごらんよ。 −
ついにイヴは禁断の実を食べ,
イヴにもらってアダムも食べてしまった。
そのとたんに,二人はお互いが裸であることに気がつき,
あわててイチジクの葉で腰のあたりを隠した。
すると神があらわれた。
− お前たちは何をしている。
いったいどうして裸であることを知ったのだ。 −
こうしてアダムとイヴはエデンの園を追われ,
人類のきびしい旅路が始まった。
あのときアダムは,
食べた実の一切れが喉に引っかかってとれなくなった。
そのため男の喉にある出っ張りは,
「アダムのリンゴ」と呼ばれている。
リンゴの花言葉は『誘惑』『後悔』です。
★ライラック(リラ)
ライラックは別名ムラサキハシドイと呼ばれる,
モクセイ科ハシドイ属の落葉低木です。
フランス語ではリラと呼ばれています。
東ヨーロッパ原産で,香料の原料をつくるために
15〜16世紀にフランスで盛んに栽培されていました。
17世紀にはフランスで,
白いライラックの花がつくられました。
日本には明治の中頃に渡来しましたが,
暑さに弱いため,北日本でよく生育しています。
北海道ではライラックの花が咲く頃に寒の戻りがあり,
「リラ冷え」と呼ばれています。
イギリスの話です。
ある貴族が田舎村でひとりの娘を見初め,
熱心に求婚して,やがて娘も結婚に同意しました。
しかし貴族は別の令嬢に心を移し,
貴族との結婚を信じていた清純な娘は
失意のうちに死んでしまいました。
村の人々は娘を哀れんで,
娘の墓を薄紫色のライラックでおおいました。
すると一夜にしてライラックは白い花に変わり,
やがて白いライラックはイギリス全土に広まりました。
娘の墓は今でも,
白いライラックの花につつまれています。
ライラックの花言葉は『初恋』です。
★トネリコ
トネリコの仲間はユーラシア大陸を中心に約70種が分布し,
ヨーロッパ・カスピ海原産のヨーロッパトネリコは
北欧などでは宇宙樹として神聖視されてきました。
ヨーロッパトネリコは大きな木で弾力があり,折れにくいため,
馬車の車輪や家具の原料にされてきました。
また日本にあるアオダモなどトネリコの仲間は,
ねばり強いことからスキーの板や野球のバットになっています。
イソップ物語です。
ひとりの木こりが森の中で,
たくさんの木々たちに大きな声で頼みました。
「斧の柄が欲しいのですが,何とかなりませんか」
森の巨木たちは若いトネリコの木を選んで,
それを木こりに与えました。
すぐに木こりは若いトネリコで斧の柄をつくると,
次々と巨木たちを切り倒しはじめました。
このとき,巨木たちは斧の柄の使い道を知ったのです。
そして自分の命を守るために,
若いトネリコを犠牲にしたことを大いに悔いました。
トネリコの花言葉は『高潔』『思慮分別』です。
★オダマキ(苧環)
オダマキは北半球各地の約50種が分布し,
欧米原産のものはセイヨウオダマキと呼ばれています。
花色は赤,青,紫,藤色,桃色,白と多彩で,
大輪咲き,八重咲きなど,変化にも富んでいます。
紡いだ麻糸を巻き付けて玉のようにした形から
苧環(おだまき)という名が付きました。
また糸繰草,吊るし鐘という別名を持っています。
ヨーロッパでは聖母の月5月に咲くため,
「聖母の手袋」とも呼ばれています。
静御前に因んだ有名な故事です。
鎌倉八幡宮を参拝した源頼朝の厳命で,
静御前は社前で美しい舞いを披露しました。
金色の立烏帽子をいただいた静御前の水干の袖が,
まるで虹色の扇のようにひるがえります。
「しずしずや しずのおだまき繰り返し 昔を今になすよしもがな
吉野山峰の白雪踏みわけて 入りにし人の跡ぞ恋しき」
静御前はオダマキを詠んだ歌で愛する義経を偲び,
糸繰りになぞらえて昔に戻りたいと舞い歌いました。
激怒した頼朝は席を蹴って立とうとしたとき,
隣に座っている妻・北条政子が頼朝の袖を押さえました。
「私もあの夜,流人であったあなたのもとへ
はだしで走ったではありませんか。
それもこれも人を愛すればこそです。」
政子の言葉に頼朝は怒りを鎮め,
引き出物を与えてその座を納めました。
オダマキ(紫)の花言葉は『あの人が気掛かり』です。
★カキツバタ(杜若)
カキツバタは北海道,本州,四国,九州に分布するアヤメの仲間で,
頂きに気品のある青紫色の花を2〜3個つけます。
青は万葉の時代から気品のある色とされ,
貴族たちは初夏にこの花で衣を染めていました。
この花で色を染めることを書付花と呼んでいたことから,
「カキツバタ」という名が付いたともいわれています。
『今昔物語』からです。
6歌仙の一人・在原業平(ありはらのなりひら)は,
ある日何もかもが嫌になり,
ふらっと東国に旅に出かけました。
三河の国の八つ橋に来ると,
あたり一面にはカキツバタの花が咲き乱れていました。
水辺にたたずみながら,都にいる妻をしのんで,
「カ」「キ」「ツ」「バ」「タ」の5文字を頭に入れて
歌を詠みました。
から衣 着つつなれにし 妻しあれば
はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ
そこ後,カキツバタといえば
三河(愛知県知立市)といわれるようになりました。
カキツバタの花言葉は『幸せは必ず来る』です。
★スイレン(睡蓮)
スイレンは世界中に広く分布する水生植物で,
丸い葉を水面に浮かべて,
赤やピンク,白,黄色などの美しい花を咲かせます。
夏を涼しく演出する花で,
日本にも野生で見られるヒツジグサがあります。
英名はウォーター・リリーです。
アメリカインディアンに伝わる話です。
昔,あるインディアンの若者が夜空を眺めていると,
星がひとつ,近くの山に降りてきて,まぶしく輝きました。
しばらくたったある夜,インディアンの若者は
夢の中で白く輝く美しい娘に出会いました。
その娘は若者に話しかけました。
− 私は山の上で輝いている星です。
美しい地上や子供たちが好きになりました。
私はこれから山にある湖に住むことにします。
今,水面に映る兄弟星たちも降りてくるように誘っています。 −
そう言うと,娘は姿を消してしまいました。
翌朝,インディアンの若者は山の湖に急いで出かけました。
湖には白いスイレンの花がたくさん咲き,
太陽の光にキラキラ輝いていました。
スイレンは星の花なのです。
スイレン(白)の花言葉は『心の純潔』です。
★ユキノシタ
晩春から初夏にかけて咲く花ですが,
名前はなぜか「ユキノシタ」といいます。
雪のような花の下に常緑の葉が見え隠れするからとか,
積雪の下でも枯れずによく育つことからともいわれています。
岩や石垣の間にひっそりと咲き,
花をじっくり見るとまるで小さな妖精のようです。
若葉は天ぷらやおひたしにするとおいしく食べられ,
葉は漢方では「虎耳草」として解熱や解毒に用いられています。
さだまさしが作詞・作曲した『秘恋』です。
形見分けで貰った 祖母の机に
古ぼけた写真と 封筒が眠っていた
祖父でないそのひとは 若い兵士で
出しそびれた恋文の 宛名の主だろう
昔 愛した ひとだろうか
せつなく別れた ひとだろうか
ユキノシタの白い花を祖母は愛していた
石垣にすがるように 耐えるように咲く花を
時代とはいえども 祖母の秘めた恋は
誰に語る事もなく 静かに閉じていた
どんな風に祖母を 愛したひとだろうか
そのひとの面影は 少し僕に似ていた
どんな思いで諦めたのだろう
どんなに悲しく想い続けたのだろう
ユキノシタの白い花を祖母は愛していた
石垣にすがるように 耐えるように咲く花を
今は昔の物語
人知れず咲いて 消えた花
ユキノシタの白い花を祖母は愛していた
石垣にすがるように 耐えるように咲く花を
ユキノシタの花言葉は『深い愛情』です。
★ジギタリス
ジギタリスは人の背丈ほどもあり,
ピンク,白,クリーム色などのベルのような花を
縦にいくつも咲かせます。
花弁の内側には細かな点があり,
独特のあかぬけた雰囲気を持つ花です。
葉にはジギトキシンという成分が含まれ,
ジギタリンという心臓病薬の原料になります。
古くから薬用として栽培されてきましたが,
誤って使用すると心臓麻痺を起こす毒草でもあります。
ヨーロッパに伝わる話です。
ある悪い妖精がキツネにジギタリスを与えました。
キツネはジギタリスの花を手足にはめて,
足音をさせずに歩くことを覚えました。
その日から,キツネは平気で
鳥小屋の周りをうろつくようになりました。
ジギタリスは「キツネの手袋」と呼ばれています。
ジギタリスの花言葉は『熱愛』『不誠実』です。
★テイカカズラ(定家葛)
テイカカズラは本州,四国,九州の林内で普通に見られ,
茎が木や岩をはいのぼる常緑のつる性植物です。
初夏に風車のような香りのよい花をつけ,
花の色は次第に白から淡黄色に変わっていきます。
花が終わると20センチほどの細長い実を結び,
長い白毛が付いた種を風に飛ばします。
謡曲にある話の一部です。
新進気鋭の歌人・藤原定家は,
才色兼備の女流歌人・式子内親王に恋をしました。
しかし式子内親王は後白川帝の第三皇女,
定家は思いを伝えることはできませんでした。
やがて式子内親王は加茂の斎宮となり,
出家した後,若くして死んでしまいました。
それから40年後,定家は79歳でこの世を去りました。
定家が埋められた塚から葛のつるが伸びはじめ,
近くにあった式子内親王の墓に達すると,
葉を茂らせて墓を覆いつくしてしまいました。
式子内親王の墓は,
定家の執念による葛にまといつかれてたのです。
その後,人々はこの葛のことを
「定家葛」と呼ぶようになりました。
テイカカズラの花言葉は『優雅』です。
★ハマユウ(浜木綿)
ハマユウは海岸の砂地に生える常緑多年草で,
ハマオモトとも呼ばれています。
真夏の紺碧の海辺を背景に,
細いリボンを結んだような花を咲かせ,
あたりの砂浜には甘い香りが漂っています。
乾燥に耐えるため葉が大きくて肉厚で,
外見以上にたくましい植物です。
種子がはるかアフリカの海岸から海流に乗って,
日本の北九州に漂着したといわれています。
柿本人麻呂の歌です。
み熊野の 浦の濱木綿(はまゆう) 百重(ももえ)なす
心は思へど 直(ただ)に逢はぬかも
− 百重なすハマユウのように,
私の心はあの人での思いではちきれそうです。
それなのに,会うことができないとは……。 −
ハマユウの花言葉は『どこか遠くへ』です。
★クチナシ
クチナシは静岡以西の日本各地や
中国,台湾,インドシナに分布する常緑低木です。
花の香りがよいため,
庭木にもよく利用されます。
一重咲きの原種は秋に実がみのり,
古来から染料や薬用,食品の着色料に使用されてきました。
八重咲きのクチナシは実がみのりませんが,
花は素晴らしく甘い香りがします。
ジャズ歌手のビりー・ホリデーはクチナシの花を愛し,
ステージに立つときには髪に飾ったことでも知られています。
クチナシ伝説です。
昔,白い色をこよなく愛する
ガーデェニアという美しい女性がいました。
ある日,天使が会いに来て,
ガーデェニアにひとつの植物の実を渡しました。
− これは天国にだけ咲く花の実です。
鉢に植えて大きくなったら,
花にキスをしなさい。
そのとき私はあなたに会いに来ます。 −
ガーデェニアは心をこめて植物を育て,
やがて純白の美しい花を咲かせました。
ガーデェニアは白い花にキスをしました。
すると天使がガーデェニアの前に現れ,
立派な若者に変身しました。
やがて二人は結婚して,
幸せに暮らしていきました。
天使が持ってきた花は,
地上に初めて咲いたクチナシの花でした。
クチナシの花言葉は『私は幸せ』です。
★オシロイバナ
オシロイバナは夕暮れの少し暗くなり始めた頃,
花が咲いて明るくなるため「夕化粧」ともいわれます。
英名のフォー・オク ロックは,
夏の夕方4時に花が咲くことに由来しています。
花に色が毎日のように変わることから
「私は恋を疑う」という花言葉が生まれました。
花後にできる黒い種子を割ると,
おしろいのような白い粉が詰まっています。
昔,子どもたちがこの白い粉を手足に塗って
よく遊んでいました。
宮部みゆきの小説『今夜は眠れない』には
オシロイバナがアクセントとして使われています。
母さんと父さんは今年で結婚15年目,
僕は中学一年生でサッカー部。
そんなごく普通の平和な我が家に,
ある日突然,暗雲がたちこめた。
放浪の相場師とよばれた人物が
母さんに五億円もの財産を遺贈したのだ。
まわりの人たちの態度は一変し,
母さんの過去を疑う父さんは家出をし……。
壊れかけた家族の絆を取り戻すために,
僕と友人・島崎は調査に乗り出した。
− オシロイバナがたくさん咲いていたというのだ。
僕のうちにあるオシロイバナだ。
母さんがどこからか種を拾ってきて植え,
ウイークリー・マンションに引っ越すときでさえ,
枯れたら可哀相だと言って,持っていった。 −
オシロイバナの花言葉は『私は恋を疑う』です。
★サルスベリ(百日紅)
サルスベリは中国南部原産の落葉樹で
木の幹は白く滑らかです。
そのため,木登りがうまい猿も足をすべらせることから
サルスベリという名前がつきました。
また,初夏から晩夏まで花期が長いことから,
漢字では「百日紅」という字があてられました。
朝鮮に伝わるお話です。
朝鮮のある漁村では,海難を防ぐために
村の娘を龍神に捧げるならわしがありました。
ある年,村一の長者の娘が選ばれ,
娘は泣きながら最後の化粧をして岸壁で龍神を待ちました。
そこに黄金の船に乗ったこの国の王子が通りかかり,
岸壁で泣いている娘を見つけました。
娘に事情を聞いた王子は不憫に思い,
龍神と戦って打ち勝ち,娘を救いました。
その後,王子と娘は恋仲となり,
百日後の再会を誓って王子は旅立ちました。
百日目の再会を待ち望んでいた娘は
その日を迎えることなく病で死んでしまいました。
百日目の朝,娘を訪ねた王子は娘の死を知って
娘の墓の前でいつまでも悲しみに暮れていました。
いつしか娘の墓に一本の木が生え,
きれいな薄紅色の花を付けました。
人々は百日間も王子を待ち続けた娘の化身だと信じ,
この木を百日紅と名付けました。
サルスベリの花言葉は『愛敬』です。
★ハス(蓮)
ハスは古い時代に中国から渡来した水草で,
原産地はインドといわれています。
ハスという名前は蜂巣の略で,
果実の入った花床が蜂の巣に似ていることによります。
仏教では,泥の中から清らかな花を咲かせるので,
肉欲や物欲などを超越した純粋性を持つ,
極楽浄土の象徴といわれています。
仏教にまつわる話です。
遙か西空の果てに,
青く澄みきった神秘的な湖があります。
水面には紅や白,青,紫など
さまざまな色合いのハスが咲いています。
ひとつのハスは,地上で生きている人間ひとりの魂,
浄土への深い思いが,ひとつの花を咲かせます。
善行を重ね,光の道をすすむ人の花は美しく咲き,
悪の誘惑に負けた人の花は,枯れて散っていきます。
ハスの花言葉は『救ってください』です。
★ツユクサ(露草)
ツユクサは日本全土の道ばたや草地に
普通に生える一年草です。
茎の下部は地をはってよく分枝し,
節から根をだしてふえます。
花の染料が布の染め付けに使われるので
着草(つきくさ)とも言われます。
徳富蘆花は美しい花を
「花では無い,あれは色に出た露の精である」といいました。
万葉集の一首です。
百(もも)に千(ち)に 人に言ふとも つきくさの
移ろふ情(こころ) われ持ためやも
− 人は他人はいろいろ言いますが,私の気持ちは変わりません。
他人の噂や言葉で変わるような浮ついた恋ではないのです。 −
ツユクサの花言葉は『尊敬』です。
★オトギリソウ(弟切草)
日本全国の日当たりのいい草地に生え,
7〜8月に黄色い花をつけます。
薬草として用いられ,
止血や消炎,喉の痛みなどに効能があります。
ヨーロッパでは聖ヨハネの日の頃に花が咲くので,
聖ヨハネの花と呼ばれています。
ドイツの伝わるお話です。
聖ヨハネの日の前夜,
魔女たちはエニシダの箒にまたがって夜空を飛び,
ブロッケン山に集まって大宴会を開きます。
一年のうち,この日だけは
闇の力を持つ者が全員外出することになります。
家の人たちはこの日を待ちわびていました。
魔女が留守の間に,
ドアにオトギリソウと十字架を打ちつけておくのです。
こうすれば,魔女たちが戻ってきても家に入ることができず,
その家は闇の力から解放されるのです。
オトギリソウの花言葉は『魔法』です。
オトギリソウを枕の下にして眠ると,夢の中に未来の夫が現れます。
あなたは試してみたいですか?
★ムクゲ(木槿)
中国原産の落葉低木で,
今では世界中で栽培されています。
アオイ科の仲間・フヨウと同じように,
朝咲いて夕方しぼむ一日花です。
韓国では無窮花(ムグンファ)と呼ばれ,
国花として大切にされています。
韓国の国歌『愛国歌』では
「無窮花と三千里の美しい山河と大韓の民が,
大韓の地に末永く栄えるように」と歌われています。
中国最古の歌謡集『詩経』から,
恋の歌「娘と相乗り」を紹介します。
咲いたムクゲの花のよな
可愛い娘と相乗りで
ゆらりゆらゆら
玉かざり
あの美しい孟姜(モンジアン)さん
ほんにきれいでみやびてる
ムクゲの花言葉は『繊細な美』です。
★フヨウ(芙蓉)
フヨウは暖地の沿岸地に自生する落葉低木で,
園芸用としてもよく利用される美しい花木です。
昔から美しい女性の例えに用いられ,
フヨウのように美しくしとやかな顔立ちを
「フヨウの顔」といいます。
中国・成都に伝わる伝説です。
錦江のほとりに芙蓉という美しい娘が住んでいました。
芙蓉はいつも川で米をとぎ,
近寄ってくる鯉に食べ物をあげていました。
ある日,鯉がそっと芙蓉だけに教えてくれました。
端午の節句に黒龍が洪水を起こすので逃げるようにと。
芙蓉は誰にも教えてはいけないという約束を破り,
村人に教えて,みんなを高台に避難させました。
怒った黒龍は芙蓉に襲いかかってきましたが,
芙蓉は宝剣を持って,若い狩人ともに黒龍と闘いました。
三日三晩闘って,ついに黒龍は倒れましたが,
芙蓉も深い傷を負い,命を失いました。
戦いの時に流した芙蓉の血は,やがて芙蓉の花になり,
川沿いのあちこちに根をおろしました。
フヨウの花言葉は『しとやかな恋人』です。