★キク(菊)
キク属は世界に200種ほどあり,
日本でもノジギクやハマギクなどが自生してます。
秋を彩る代表的な花で,
「九」の数を最高とする中国では,キクを九花と呼んでいます。
また,キクは独特の香気をもち,
中国では不老長寿の薬草とされてきました。
ドイツに伝わる話です。
ある村に,貧しいけれど,
家族が仲良く,まじめに働く明るい家族がありました。
ある年のクリスマスイブに,家族全員で祈りをささげていると,
戸をたたく音が聞こえました。
戸を開けると,そこには疲れ果てた旅人が立っています。
その家族はみんな笑顔で旅人を迎え入れました。
子どもたちも自分のわずかな食べ物をわけて,
みんなで精一杯のもてなしをしました。
食事をおえた旅人が立ち上がってお礼をいうと,
汚れた着物は真っ白に変わり,
頭のまわりにはまぶしい光の輪ができました。
旅人はキリスト自身だったのです。
キリストは,家族全員を優しい眼差しで見つめると,
そのままふっと消えてしまいました。
翌朝,子どもたちが戸を開けると,
キリストが立っていた場所に一輪の白キクが咲いていました。
それ以来,ドイツではクリスマスイブになると,
一本のキクの花を飾るようになりました。
キクの花言葉は『高貴』です。
★フジバカマ
フジバカマは秋の七草のひとつで,
中国では香草としてよく知られています。
中国原産のキク科の多年草で,
高さ1メートルくらい,
8〜11月に白色〜薄紅色の花を咲かせます。
奈良時代に渡来したといわれ,
今では関東以西の川岸などに見られますが,
野外で見ることは稀で,
ほとんどが園芸用に育てられているものです。
日本に伝わるフジバカマの伝説です。
ある雨が降る夜のことです。
道に迷ってしまった美しい姫が,
泣きながら野辺をさまよっていました。
あたりは一面の闇で,
だれも姫に気づくことはありません。,
やがて姫の姿は夜霧に中に消えていきました。
翌日は抜けるような青空になりました。
しかし姫がさまよっていた野辺には人影はなく,
かわりに桃色の可憐な花が咲いていました。
その花は姫の生まれ変わりだとされ,
姫がはいていた藤の袴から,
「フジバカマ」と名づけられました。
フジバカマの花言葉は『あの日を思い出す』です。
★蜜柑(ミカン)
蜜柑には多くの仲間がありますが,
タチバナと沖縄のシークワーサーが
日本原産の柑橘類といわれています。
蜜柑の仲間は簡単に交雑して新しい品種ができるので,
世界中で栽培されています。
蜜柑の原種はインド東部に自生し,
古い時代に日本に渡来して各地で多くの品種がつくられ,
ウンシュウミカンやナツミカンも日本で生み出されました。
ウンシュウミカンは鹿児島県原産で,
今では暖地で広く栽培されています。
古事記にある蜜柑の話です。
ある日,垂仁(すいじん)天皇が,
田道間守(たじまもり)を呼んでいいました。
「南海の果てにある常世(とこよ)の国には,季節をとわず実る
香り高い『非時香菓(ときじくのかくのこのみ)』があるそうな。
私のためにとって来て欲しい。」
田道間守は南海の果てに向けて船出し,
大変な苦労の末に,とうとうその実を手に入れました。
喜び勇んで帰ってきた田道間守でしたが,
すでに垂仁天皇は亡くなっていました。
田道間守は泣きながら,
緑の葉がついた実を垂仁天皇の御陵に捧げました。
「御命じになった木の実をただいま持って参りました。」
田道間守は墓前に伏したまま,
いつまでも立ち去ろうとはしませんでした。
このとき田道間守が持ってきた実は,
蜜柑の原種・タチバナ(橘)だったといわれています。
今でも京都御所には「左近の桜」とともに,
「右近の橘」が植えられています。
蜜柑の花言葉は『心の広さ』です。
★カエデ(楓)
カエデの仲間は世界に2属,約200種あり,
多くは北半球の温帯に分布しています。
いわゆるモミジも,カエデの仲間になります。
カエデの名は蛙の手が転じたもので,
葉の形が蛙の手に似ていることから名がつけられました。
ハンガリーに伝わるお話です。
ある国に3人の王女がいました。
ひとりは美しい金髪の王女で,ふたりは黒髪の王女です。
ある日,王が3人の王女に,
籠一杯のイチゴを摘んできたものに
王位を譲ると宣言しました。
3人の王女は森の中に入っていき,
金髪の王女はすぐに籠一杯のイチゴを摘みました。
それに嫉妬した2人の黒髪の王女は,
金髪の王女を殺して,カエデに木の下に埋めました。
やがて王女が埋められたところからはカエデの若木が育ち,
それを牛飼いの青年が見つけました。
青年はそのカエデで笛をつくって吹くと,
音ではなく言葉がでてきました。
「私は昔,王の娘。それからカエデ,今は笛。」
青年は驚いて,このことを王に訴えました。
王は黒髪の王女に対して,
この笛を吹くように命じました。
「人殺し! 私は王の娘,今は笛。」
王は即座に事実を理解して,
この2人の王女を追放しました。
カエデの花言葉は『遠慮』『約束』です。
★ヨシ(アシ)
日本全土の水辺や湿地に群生し,
高さは3mにもなるイネ科の植物です。
アシ(葦)と呼ばれてきましたが,
名前が「悪し」に通じて縁起が良くないので,
反語の「良し」をとって,ヨシと呼ばれています。
ヨシについてのギリシア神話です。
一つ目巨人のポリュペモスは,海の神ガラティアに恋しました。
ある日,ポリュペモスは見てしまったのです。
恋しいガラティアと羊飼い青年のアキスの抱擁のシーンを。
嫉妬に狂ったポリュペモスは,
憎いアキスを殺してしまいました。
血まみれで死んでいるアキスを見たガラティアは,
深く悲しんで,流れ出たアキスの血を永遠に流れる川に変えました。
アキスの血が流れる川のそばには,
じっと流れを見るガラティアがたたずんでいました。
すると,次第にガラティアの腕は長く伸び始め,
肩からは細い葉が生えはじめました。
そして,ついにガラティアは川辺に生えるヨシになったのです。
ヨシの花言葉は『深い愛情』です。
★クリ(栗)
クリは北海道,本州,四国,九州の山野に自生する落葉高木で,
材は木目が美しいので家具や工芸用に使われ,
実は食用になります。
山野に自生する小さな実をつけるクリは
シバグリと呼ばれる栽培グリの原種です。
クリの仲間は北半球の温帯から暖帯に約10種あり,
日本では甘栗として有名なチュウゴクグリや,
マロングラッセに使われるヨーロッパグリがあります。
宇治捨遺物語にあるクリの話です。
天智天皇の死後,長男の大友皇子(おおとものおうじ)は
政権を獲得するために弟の大海人皇子の殺害を計画しました。
しかし大海人皇子は危険を察知して,
民に変装して,ひとり北へ逃れていきました。
大海人皇子は3日間山の中をさまよい,
山城の田原という村にたどり着きました。
民の姿をしていても気品のある皇子を見た村人は,
ゆで栗と焼き栗を高坏(たかつき)に盛って差し出しました。
「私の思いがかなうなら木になれ。」といって,
皇子はそう言うと,数粒のクリを土に埋めました。
その後,大海人皇子は不破明神の助けを得て,
大友皇子をうち破って,天武天皇に即位しました。
田原の村人たちは,
見事に育ったあのときの栗の実を献上し,
天武天皇は大いに喜ばれました。
クリの花言葉は『公平に判断せよ』です。
★ヤドリギ(宿り木)
ヤドリギは北海道,本州,四国,九州に分布する常緑低木で,
おもに落葉高木の樹上に寄生します。
晩秋から初冬にかけて,
淡黄色に熟した種子をつけます。
種子は粘液がついているので,
その粘液で木の枝に粘り着いて寄生します。
北欧の言い伝えでは,
クリスマスの日にヤドリギの下で会った人とは,
誰とでもキスをしていいとされてきました。
ギリシア神話です。
クレタ島の王子・グラコウスはひとり庭で遊んでいて,
誤って中庭の蜜壷に落ちてしまいました。
数日たってもグラコウスの行方がわかならいため,
ミノス王は占い師・ポリュウエイドに頼んで,
グラコウスの行方を占ってもらいました。
「王子は中庭の蜜壷の中に。」
しかし,すでにグラコウスは
蜜壷の中で息を引き取っていました。
ミノス王はポリュウエイドに,
「グラコウスを生き返らせよ。」と命じました。
そしてポリュウエイドは,
亡くなったグラコウスとともに墓に埋められました。
墓の中で,途方に暮れていたポリュウエイドの前に,
1匹のヘビが現れて襲ってきました。
しかしヘビはポリュウエイドに殺されてしまいました。
次に現れたヘビは,仲間のヘビが殺されているのを見て,
しばらく姿を消した後,1枚のヤドリギの葉を持ってきました。
そして死んだヘビに葉をこすりつけたのです。
すると死んだはずのヘビは生き返り,
2匹のヘビは,揃ってどこかへ消えていきました。
ポリュウエイドはすぐにヘビが持ってきたヤドリギの葉を拾い,
グラコウスの体にこすりつけると,
見事にグラコウスは生き返ることができました。
ヤドリギの花言葉は『忍耐強い』です。
★コケ(苔)
コケは緑藻植物から進化し,
水中生活から陸上生活に移行した最初の段階の植物です。
種子をつくらず胞子で増えるので,
キノコやシダに似ています。
しかし葉緑素を持っていて光合成をするので,
葉緑素を持たず他の生物に依存するキノコとは異なります。
コケは北欧の神話の中の登場して,
奇跡を起こす植物であるとか,
妖怪や黒魔術を防ぐお守りとされてきました。
北欧の神話を紹介します。
昔,ある国にとても慈悲深い国王がいました。
国王はやがて亡くなり,
民は哀しみの中で国王の墓に十字架を建てました。
しばらくすると,国王の十字架はコケでおおわれ,
国内各地からは参拝者が跡を絶ちませんでした。
ある日,信心深いひとりの男が国王の十字架の前で転倒し,
右腕を骨折してしまいました。
連れの男は,国王なら治せるかもしれないと思い,
十字架にコケを少しとって,
男の骨折した右腕に塗りました。
すると,たちまち男の骨折は直ってしまいました。
コケの花言葉は『母性愛』です。
★チューリップ
チューリップはユリ科の多年草で,
中央アジアが原産地ですが,オランダでは国花になっています。
17世紀,オランダは「チューリップマニア時代」を迎え,
国中の人々がこの花に夢中になりました。
このときのことを,
デュマは小説「黒いチューリップ」に詳しく書きました。
日本には江戸時代に伝わり,
明治から大正にかけて普及するようになりました。
オランダに伝わる話です。
ある村に,とても美しく心の優しい少女がいました。
勇敢な3人の騎士がこの少女に恋をして,
そろってプロポーズをしました。
ひとりは家宝の王冠,ひとりは剣,
最後のひとりは黄金を少女にプレゼントしました。
しかし少女は,どうしてもひとりを選ぶことができません。
悩み続けた少女は,花の神・フローラに
自らをチューリップに変えて欲しいと願い,
ついにはチューリップになってしまいました。
チューリップの花は今でも,
花が王冠,葉が剣,球根が黄金を象徴すると言われています。
チューリップの花言葉は『博愛』『思いやり』です。
★クリスマスローズ
クリスマスローズはヨーロッパ中・南部から
西アジアにかけて自生するキンポウゲの仲間です。
オリエンタリス種やニゲル種のほか,
木立クリスマスローズと呼ばれるフェッティドウス種など
多くの品種がありますが,
いずれもうつむき気味に可憐な花を咲かせます。
キリスト教に伝わる話です。
イエス・キリストが誕生したとき,
羊飼いのみんなはお祝いを持ってかけつけました。
しかしひとりの貧しい少女は,
持っていくお祝いの品がありませんでした。
精一杯の気持ちを花に込めて贈ろうと思い,
野原で花を探しましたが,
あたり一面の雪で花など咲いていませんでした。
少女は雪の降る空を見上げて涙を流していたら,
空から天使が舞い降りてきました。
天使は雪の中から白い花を探しだして,
少女にそっと手渡してくれました。
その花がクリスマスローズです。
クリスマスローズの花言葉は『不安を取り除いてください』です。
★バラ(白)
バラは常緑低木ですが,その起源は明かではありません。
花の女王・バラは各地で約1万種以上の品種がつくられ,
世界中でもっとも多くの人に親しまれてきました。
ツタンカーメン王の副葬品にバラ模様の衣装があったことから,
歴史的に見ても古い時代から愛されていたようです。
ローマ帝国の皇帝ネロはバラを溺愛して,
バラを飾るために散財したことはよく知られています。
キリスト教に伝わるバラの物語です。
ひとりの召使いが,夕暮れの森の中を走っていました。
この森は盗賊が出ることで知られたところです。
ところが,全速力で走っていた召使いは,
急に立ち止まって,その場に座り込んでしまいました。
彼は夕べの祈りを忘れていることに気づき,
聖母マリアにお祈りを捧げはじめたのです。
これを森の影から見ていた盗賊たちは,
召使いに襲いかかろうと腰を上げました。
すると,一心に祈る召使いの背後に,
気高い聖母マリアの姿が現れました。
聖母マリアは召使いの頭の上に花輪をのせ,
召使いが祈るたびに,花輪にバラの花を1輪ずつ加えました。
しばらくしてバラでいっぱいになった花輪は
光り輝いて,あたりを明るく照らしていました。
盗賊たちはあまりの美しさと神々しさに,
その場から急いで立ち去っていきました。
白いバラの花言葉は『私はあなたにふさわしい』です。