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第5Flower Garden













 クズはマメ科クズ属のつる性多年草で,
 日本各地の山野や道端などで普通にみることができます。

 秋の七草のひとつですが,
 花よりも食べ物として有名です。

 根からとれる良質のデンプンはくず粉として,
 古くからくず湯やくず餅など,食用にされてきました。

 また薬効にも定評があり,
 風邪薬で有名な「葛根湯(かっこんとう)」の材料として,
 今でも重宝されています。

 葉は家畜の肥料になり,
 茎はその繊維を使って「くず布」が織られてきました。


 日本に伝わる伝説です。

  醍醐天皇の時代,摂州阿倍野の信太明神の境内で,
  散歩をしていた安倍保名(あべのやすな)は,
  猟師に追われた1頭の白ギツネを助けました。

  翌日,遠方にいて離ればなれになっているはず妻が,
  いきなり保名のところに帰り,
  保名は不思議に思いながらも,大喜びでした。

  やがて妻との間に可愛い男の子も産まれ,
  家族3人で幸せな生活を送っていました。

  ある日,妻から「もうすぐ帰れます。」という手紙が
  保名のところに届きました。

  目の前にいる妻は,
  あの日助けた白ギツネの「葛の葉」だったのです。

  白ギツネ・葛の葉は,
  そのまま夜更けの森に消えていきました。

  保名は母を慕って泣く赤子を抱いて,
  森の中に入っていきました。

  するとクズの繁みから現れた白ギツネ・葛の葉は,
  「生涯この子の影に添って守りましょう」と約束して,
  その場から消えていきました。

  このときの赤子が,
  名高い陰陽師の安倍晴明(あべのせいめい)となります。 
  
  


 クズの花言葉は『芯の強さ』です。






★コスモス(秋桜)

 コスモスはメキシコ原産の一年草で,
 さわやかな風になびいて咲く姿はとても美しく,
 秋の代表的な草花です。

 花の形がサクラに似ているので,
 日本では秋桜ともいわれています。

 コスモスは日露戦争後,
 全国に広がった外来植物のひとつです。

 コスモスの渡来には,
 ラグーザお玉で艶名をうたわれた東京美術学校教師の
 イタリア人・ラグーザ氏が明治12年頃に,
 故郷より持参したのではないかという説がありますが,
 実際はよくわかっていません。


 夏目漱石の『修善寺日記』にある一文です。


  コスモスに対しながら「干菓子のような花だ」と言ふと

  傍にいた門生の誰やらが「何故ですか?」とたずねるので

  「何故ですかには困るね」とさすがに苦笑した。



 コスモスの花言葉は『乙女の真心』です。






★ノブドウ(野葡萄)

 ノブドウは日本全土の山地や丘陵,野原などに多く生え,
 秋に赤や青,紫などの美しい実をつける野生のブドウです。

 実の大きさは直径6〜8ミリ,
 冬になると地上部はすべて枯れてしまいます。

 美しい実なのですが,
 ひとは食べることができないそうです。 
 
 美しい実をながめていると,
 小さなアリたちも集まってきました。


 旧約聖書に書かれたブドウの話です。

  イスラエルの民はモーゼに率いられて,
  迫害され続けたエジプトの地を脱出しました。

  追いかけるファラオの軍勢から逃れ,
  神が約束した安住の地をめざして,長い間歩き続けました。

  ようやく乳と蜜の流れる約束の土地・カナンに近づいたとき,
  モーゼは何人かの男達を選び,様子を見に行かせました。

  やがて男達は満面の笑みで,
  1房の大きなブドウの実を抱えて帰ってきました。

  大きなブドウは,よく肥えた豊かな土地の証明だったのです。

  その後,この地はエシコル(一粒のぶどう)と
  呼ばれるようになりました。
  


 ブドウの花言葉は『信頼』です。






★リンドウ(竜胆)

 リンドウは本州から沖縄の山野に生える多年草で,
 高さ20〜100センチ,
 9〜11月にかけて青紫色の美しい花を咲かせます。

 リンドウは根をかむと熊の胆以上に苦く,
 まるで龍の胆のようであることから
 「竜胆(りんどう)」と名づけられました。

 江戸時代以前には,
 消炎や解毒剤に用いられていたそうです。


 日本の昔話「二荒縁起」のなかにある話です。

  昔,修験者の役小角(えんのおづめ)が山道を歩いていると,
  雪の中から,一匹のウサギが現れました。

  ウサギは積もった雪をかき分けながら,
  リンドウの根を集めていました。

  役小角は不思議に思って,
  そのウサギに近づいて聞きました。

  「どうしてリンドウを探しているのか?」
  
  ウサギは少しびっくりしたようですが,
  「主人が病気なのでリンドウを集めている」といって,
  急いでその場から走り去っていきました。

  役小角も試しに,
  リンドウの根を掘って病人に飲ませると,
  すぐに病気が直ってしまいました。

  役小角はその効能に驚き,
  それ以来,リンドウは霊草として大切にされたそうです。



 リンドウの花言葉は『悲しんでいるあなたを愛する』です。






★ススキ

 ススキは秋の七草のひとつで,
 十五夜の月見には欠かせないものです。

 華やかでもなく,きれいな花も咲きませんが,
 秋風に吹かれて波のようにゆれる姿はことのほか美しく,
 秋の草原を代表する野草といえます。

 ススキは綿の代用品になったり, 
 民家のかや葺き屋根として利用されたりして,
 大変役に立つ野草でもあります。

 日本のよさや美しさを代表するススキを,
 いつまでも大切にしていきたいですね。


 万葉集にある日置長枝娘子(へきのながえのおとめ)の歌です。

 この歌は大伴家持のそばにいた日置長枝娘子が,
 ただ一首残した歌です。

 夏目漱石の「草枕」で,
 峠の茶店のおばあさんが暗唱した歌でも知られています。


  秋づけば  尾花(をばな)が上に  置く露の

     消(け)ぬべくも  吾(あ)は思ほゆるかも


  − 秋になるとススキの上に露がつきます。  

      その露のように消えてしまうのでしょうか。

          あなたをお慕い続けて………     −
       


 ススキの花言葉は『心が通じる』です。






★ソバ(蕎麦)

 ソバの仲間は野生種を含めて十数種類あり,
 天災で畑の作物が育たないときや,
 痩せた山の荒れ地などでも立派に育つ力強い植物です。

 ソバの原産地は中国の雲南省か,東アジア北部といわれていますが,
 日本には大変古い時代から入り,
 奈良時代には荒れ地の作物として利用されていました。

 ソバの花で真っ白になった畑は,
 夜になると沼や池のように見えるので,
 ソバ畑でキツネに化かされたという話がたくさんあります。


 キリシタンにまつわる話です。

  秋のある日,天草の農夫がソバの種を蒔いていたとき,
  畑の向こうから異人が走ってきました。

  「役人に追われています。
      どうか助けてください。」

  農夫はすぐにキリシタンだと気がつきましたが,
  真っ直ぐにこちらを見るまなざしを見て,
  すぐに悪い人ではないと思いました。

  「畑の下にある洞窟に隠れなさい。」

  農夫はキリシタンを洞窟にかくまいました。

  すぐあとに役人がやってきて,
  「キリシタンの居場所を教えろ。」と農夫を責め立てます。

  とうとう農夫は役人に話しました。

  「ソバの種を蒔いているときにやってきました。」 

  すると役人は,
  「それではよほど前のことではないか」といい,
  怒りながらに去っていきました。 

  農夫が振り返ると,
  さっきまでソバの種を蒔いていた畑は,
  一面真っ白いソバの花でおおわれていました。

  農夫はキリストの奇跡を見たのです。



 ソバの花言葉は『あなたを救う』です。






★シモツケ

 シモツケの仲間は本州,四国,九州の岩場に生える落葉低木で,
 日本には約10種が自生しています。

 群生して咲く姿は,
 「高原の女王」といわれています。

 栃木県下野産のものが古くから栽培されていたので,
 シモツケという名前がつきました。

 花は5〜8月に咲くといわれていますが,
 今年の秋に,高い山の上でシモツケの花を撮影しました。

 
 中国に伝わる話です。

  昔,中国の戦乱の世に,
  繍線(しゅうせん)という美しい娘がいました。

  繍線の父親は元騎という軍人です。

  元騎は戦いのさなか,行方不明になっていましたが,
  その後,捕虜になっているという噂が広がりました。

  繍線は男装して獄史になり,
  父親を探しに行きました。

  ところが父親は,すでに獄中で病死していました。

  繍線は嘆き悲しんで,
  父親の墓のそばに咲いていた花を形見にして, 
  故郷に帰っていきました。

  この花は繍線の名前をとって,
  「繍線花」と名づけられました。

  繍線花はシモツケの別名です。



 シモツケの花言葉は『整然とした愛』です。






★コウヤボウキ(高野箒)

 コウヤボウキは関東以西の丘陵や山地に見られる落葉低木で,
 高さは60〜90センチくらいです。

 日本に自生するキクの仲間では,
 唯一の木本植物でもあります。

 10月頃になると,
 白い筒状の花が10数個集まった頭花を咲かせます。

 コウヤボウキの別名は玉箒(たまばはき)で,
 昔,初子の日(新年最初の子の日)に,
 養蚕のカイコの床を掃くのに使った箒(ほうき)です。

 玉箒は,コウヤボウキの茎を束ねて作ったもので,
 穂先には玉が付けられています。

 京都の伏見では,
 酒桶の濁りの泡をふきとるのに使われています。


 ちょっと気が早いのですが,
 大伴家持が歌った正月のおめでたい歌です。



  始春(はつはる)の 初子の今日の 玉箒(たまばはき)

  
         手に執(と)るからに ゆらく玉の緒(を)



   −   初春をお祝いするめでたい玉箒よ,

       手にとっただけですがすがしく

       なんと美しい玉がゆらぐことよ   −



 コウヤボウキの花言葉は『働き者』です。







★キンモクセイ(金木犀)

 中国原産の常緑樹で,
 秋になると赤味の強い黄色い花を咲かせます。

 またギンモクセイは花の色が白色,
 ウスギモクセイは花の色が薄黄色です。

 花の香りが最も高いのがキンモクセイで,
 開花期には甘い香りが漂ってきます。

 中国では桂花と呼ばれ,
 花を集めて桂花糖にして食べているそうです。


 中国に伝わる話です。

  月には桂花(キンモクセイ)の大木があります。

  秋のなって月が金色の輝きを増すのは,
  この花が満開になるからです。

  仲秋の名月の夜,
  月の宮殿にすむ嫦蛾(じょうが)は
  窓にもたれて下界を見下ろしていました。

  眼下にある月の名所,杭州の西湖は
  水面に月がうつり,
  それは美しく輝いていました。

  嫦蛾は宮殿で舞いをはじめ,
  そばにいた男神の呉剛(ごこう)は満開の桂花の幹を叩き,
  舞いに合わせて拍子をとっていました。

  トトン,トン,トン,トトン

  床には桂花の花や実が金の雫のようにこぼれ落ちました。

  しばらくすると,嫦蛾は舞いながら,
  桂花の花や実を地上にぱらぱらと落としました。

  そのおかげで,地上にも天上の仙木・桂花が根づき,
  桂花が咲き誇る地は桂林と名づけられました。



 キンモクセイの花言葉は『気高い人』です。






★キク(菊)

 キク属は世界に200種ほどあり,
 日本でもノジギクやハマギクなどが自生してます。

 秋を彩る代表的な花で,
 「九」の数を最高とする中国では,キクを九花と呼んでいます。

 また,キクは独特の香気をもち,
 中国では不老長寿の薬草とされてきました。
 

 ドイツに伝わる話です。

  ある村に,貧しいけれど,
  家族が仲良く,まじめに働く明るい家族がありました。

  ある年のクリスマスイブに,家族全員で祈りをささげていると, 
  戸をたたく音が聞こえました。

  戸を開けると,そこには疲れ果てた旅人が立っています。

  その家族はみんな笑顔で旅人を迎え入れました。

  子どもたちも自分のわずかな食べ物をわけて,
  みんなで精一杯のもてなしをしました。

  食事をおえた旅人が立ち上がってお礼をいうと,
  汚れた着物は真っ白に変わり,
  頭のまわりにはまぶしい光の輪ができました。

  旅人はキリスト自身だったのです。

  キリストは,家族全員を優しい眼差しで見つめると,
  そのままふっと消えてしまいました。

  翌朝,子どもたちが戸を開けると,
  キリストが立っていた場所に一輪の白キクが咲いていました。

  それ以来,ドイツではクリスマスイブになると,
  一本のキクの花を飾るようになりました。



 キクの花言葉は『高貴』です。






★フジバカマ

 フジバカマは秋の七草のひとつで,
 中国では香草としてよく知られています。

 中国原産のキク科の多年草で,
 高さ1メートルくらい,
 8〜11月に白色〜薄紅色の花を咲かせます。

 奈良時代に渡来したといわれ,
 今では関東以西の川岸などに見られますが,
 野外で見ることは稀で,
 ほとんどが園芸用に育てられているものです。

 
 日本に伝わるフジバカマの伝説です。

  ある雨が降る夜のことです。

  道に迷ってしまった美しい姫が,
  泣きながら野辺をさまよっていました。

  あたりは一面の闇で, 
  だれも姫に気づくことはありません。,
  
  やがて姫の姿は夜霧に中に消えていきました。

  翌日は抜けるような青空になりました。

  しかし姫がさまよっていた野辺には人影はなく,
  かわりに桃色の可憐な花が咲いていました。

  その花は姫の生まれ変わりだとされ,
  姫がはいていた藤の袴から,
  「フジバカマ」と名づけられました。



 フジバカマの花言葉は『あの日を思い出す』です。






★蜜柑(ミカン)

 蜜柑には多くの仲間がありますが,
 タチバナと沖縄のシークワーサーが
 日本原産の柑橘類といわれています。

 蜜柑の仲間は簡単に交雑して新しい品種ができるので,
 世界中で栽培されています。

 蜜柑の原種はインド東部に自生し,
 古い時代に日本に渡来して各地で多くの品種がつくられ,
 ウンシュウミカンやナツミカンも日本で生み出されました。

 ウンシュウミカンは鹿児島県原産で,
 今では暖地で広く栽培されています。


 古事記にある蜜柑の話です。


  ある日,垂仁(すいじん)天皇が,
  田道間守(たじまもり)を呼んでいいました。

  「南海の果てにある常世(とこよ)の国には,季節をとわず実る
  香り高い『非時香菓(ときじくのかくのこのみ)』があるそうな。
  私のためにとって来て欲しい。」

  田道間守は南海の果てに向けて船出し,
  大変な苦労の末に,とうとうその実を手に入れました。

  喜び勇んで帰ってきた田道間守でしたが,
  すでに垂仁天皇は亡くなっていました。

  田道間守は泣きながら,
  緑の葉がついた実を垂仁天皇の御陵に捧げました。

  「御命じになった木の実をただいま持って参りました。」

  田道間守は墓前に伏したまま,
  いつまでも立ち去ろうとはしませんでした。

  このとき田道間守が持ってきた実は,
  蜜柑の原種・タチバナ(橘)だったといわれています。


 今でも京都御所には「左近の桜」とともに,
 「右近の橘」が植えられています。



 蜜柑の花言葉は『心の広さ』です。






★カエデ(楓)

 カエデの仲間は世界に2属,約200種あり,
 多くは北半球の温帯に分布しています。

 いわゆるモミジも,カエデの仲間になります。

 カエデの名は蛙の手が転じたもので,
 葉の形が蛙の手に似ていることから名がつけられました。


 ハンガリーに伝わるお話です。

  ある国に3人の王女がいました。
  ひとりは美しい金髪の王女で,ふたりは黒髪の王女です。 

  ある日,王が3人の王女に,
  籠一杯のイチゴを摘んできたものに
  王位を譲ると宣言しました。

  3人の王女は森の中に入っていき,
  金髪の王女はすぐに籠一杯のイチゴを摘みました。

  それに嫉妬した2人の黒髪の王女は,
  金髪の王女を殺して,カエデに木の下に埋めました。

  やがて王女が埋められたところからはカエデの若木が育ち,
  それを牛飼いの青年が見つけました。

  青年はそのカエデで笛をつくって吹くと,
  音ではなく言葉がでてきました。

  「私は昔,王の娘。それからカエデ,今は笛。」

  青年は驚いて,このことを王に訴えました。

  王は黒髪の王女に対して,
  この笛を吹くように命じました。

  「人殺し! 私は王の娘,今は笛。」 

  王は即座に事実を理解して,
  この2人の王女を追放しました。



 カエデの花言葉は『遠慮』『約束』です。






★ヨシ(アシ)

 日本全土の水辺や湿地に群生し,
 高さは3mにもなるイネ科の植物です。

 アシ(葦)と呼ばれてきましたが,
 名前が「悪し」に通じて縁起が良くないので,
 反語の「良し」をとって,ヨシと呼ばれています。


 ヨシについてのギリシア神話です。

  一つ目巨人のポリュペモスは,海の神ガラティアに恋しました。

  ある日,ポリュペモスは見てしまったのです。
  恋しいガラティアと羊飼い青年のアキスの抱擁のシーンを。

  嫉妬に狂ったポリュペモスは,
  憎いアキスを殺してしまいました。

  血まみれで死んでいるアキスを見たガラティアは,
  深く悲しんで,流れ出たアキスの血を永遠に流れる川に変えました。

  アキスの血が流れる川のそばには,
  じっと流れを見るガラティアがたたずんでいました。

  すると,次第にガラティアの腕は長く伸び始め,
  肩からは細い葉が生えはじめました。

  そして,ついにガラティアは川辺に生えるヨシになったのです。
  


 ヨシの花言葉は『深い愛情』です。






★クリ(栗)

 クリは北海道,本州,四国,九州の山野に自生する落葉高木で,
 材は木目が美しいので家具や工芸用に使われ,
 実は食用になります。

 山野に自生する小さな実をつけるクリは
 シバグリと呼ばれる栽培グリの原種です。

 クリの仲間は北半球の温帯から暖帯に約10種あり,
 日本では甘栗として有名なチュウゴクグリや,
 マロングラッセに使われるヨーロッパグリがあります。


 宇治捨遺物語にあるクリの話です。

  天智天皇の死後,長男の大友皇子(おおとものおうじ)は
  政権を獲得するために弟の大海人皇子の殺害を計画しました。

  しかし大海人皇子は危険を察知して,
  民に変装して,ひとり北へ逃れていきました。

  大海人皇子は3日間山の中をさまよい,
  山城の田原という村にたどり着きました。

  民の姿をしていても気品のある皇子を見た村人は,
  ゆで栗と焼き栗を高坏(たかつき)に盛って差し出しました。

  「私の思いがかなうなら木になれ。」といって,
  皇子はそう言うと,数粒のクリを土に埋めました。

  その後,大海人皇子は不破明神の助けを得て,
  大友皇子をうち破って,天武天皇に即位しました。

  田原の村人たちは,
  見事に育ったあのときの栗の実を献上し,
  天武天皇は大いに喜ばれました。
 


 クリの花言葉は『公平に判断せよ』です。






★ヤドリギ(宿り木)

 ヤドリギは北海道,本州,四国,九州に分布する常緑低木で,
 おもに落葉高木の樹上に寄生します。

 晩秋から初冬にかけて,
 淡黄色に熟した種子をつけます。

 種子は粘液がついているので,
 その粘液で木の枝に粘り着いて寄生します。

 北欧の言い伝えでは,
 クリスマスの日にヤドリギの下で会った人とは,
 誰とでもキスをしていいとされてきました。

 
 ギリシア神話です。

  クレタ島の王子・グラコウスはひとり庭で遊んでいて,
  誤って中庭の蜜壷に落ちてしまいました。

  数日たってもグラコウスの行方がわかならいため,
  ミノス王は占い師・ポリュウエイドに頼んで,
  グラコウスの行方を占ってもらいました。

  「王子は中庭の蜜壷の中に。」

  しかし,すでにグラコウスは
  蜜壷の中で息を引き取っていました。

  ミノス王はポリュウエイドに,
  「グラコウスを生き返らせよ。」と命じました。

  そしてポリュウエイドは,
  亡くなったグラコウスとともに墓に埋められました。

  墓の中で,途方に暮れていたポリュウエイドの前に,
  1匹のヘビが現れて襲ってきました。
 
  しかしヘビはポリュウエイドに殺されてしまいました。

  次に現れたヘビは,仲間のヘビが殺されているのを見て,
  しばらく姿を消した後,1枚のヤドリギの葉を持ってきました。

  そして死んだヘビに葉をこすりつけたのです。

  すると死んだはずのヘビは生き返り,
  2匹のヘビは,揃ってどこかへ消えていきました。

  ポリュウエイドはすぐにヘビが持ってきたヤドリギの葉を拾い,
  グラコウスの体にこすりつけると,
  見事にグラコウスは生き返ることができました。



 ヤドリギの花言葉は『忍耐強い』です。






★コケ(苔)

 コケは緑藻植物から進化し,
 水中生活から陸上生活に移行した最初の段階の植物です。

 種子をつくらず胞子で増えるので,
 キノコやシダに似ています。

 しかし葉緑素を持っていて光合成をするので,
 葉緑素を持たず他の生物に依存するキノコとは異なります。

 コケは北欧の神話の中の登場して,
 奇跡を起こす植物であるとか,
 妖怪や黒魔術を防ぐお守りとされてきました。 

 
 北欧の神話を紹介します。

  昔,ある国にとても慈悲深い国王がいました。

  国王はやがて亡くなり,
  民は哀しみの中で国王の墓に十字架を建てました。

  しばらくすると,国王の十字架はコケでおおわれ,
  国内各地からは参拝者が跡を絶ちませんでした。

  ある日,信心深いひとりの男が国王の十字架の前で転倒し,
  右腕を骨折してしまいました。

  連れの男は,国王なら治せるかもしれないと思い,
  十字架にコケを少しとって,
  男の骨折した右腕に塗りました。

  すると,たちまち男の骨折は直ってしまいました。



 コケの花言葉は『母性愛』です。






★チューリップ

 チューリップはユリ科の多年草で,
 中央アジアが原産地ですが,オランダでは国花になっています。

 17世紀,オランダは「チューリップマニア時代」を迎え,
 国中の人々がこの花に夢中になりました。

 このときのことを,
 デュマは小説「黒いチューリップ」に詳しく書きました。

 日本には江戸時代に伝わり,
 明治から大正にかけて普及するようになりました。


 オランダに伝わる話です。

  ある村に,とても美しく心の優しい少女がいました。

  勇敢な3人の騎士がこの少女に恋をして,
  そろってプロポーズをしました。

  ひとりは家宝の王冠,ひとりは剣,
  最後のひとりは黄金を少女にプレゼントしました。

  しかし少女は,どうしてもひとりを選ぶことができません。

  悩み続けた少女は,花の神・フローラに
  自らをチューリップに変えて欲しいと願い,
  ついにはチューリップになってしまいました。

  チューリップの花は今でも,
  花が王冠,葉が剣,球根が黄金を象徴すると言われています。



 チューリップの花言葉は『博愛』『思いやり』です。






★クリスマスローズ

 クリスマスローズはヨーロッパ中・南部から
 西アジアにかけて自生するキンポウゲの仲間です。

 オリエンタリス種やニゲル種のほか,
 木立クリスマスローズと呼ばれるフェッティドウス種など
 多くの品種がありますが,
 いずれもうつむき気味に可憐な花を咲かせます。

 
 キリスト教に伝わる話です。

  イエス・キリストが誕生したとき,
  羊飼いのみんなはお祝いを持ってかけつけました。

  しかしひとりの貧しい少女は,
  持っていくお祝いの品がありませんでした。

  精一杯の気持ちを花に込めて贈ろうと思い,
  野原で花を探しましたが,
  あたり一面の雪で花など咲いていませんでした。

  少女は雪の降る空を見上げて涙を流していたら,
  空から天使が舞い降りてきました。

  天使は雪の中から白い花を探しだして,
  少女にそっと手渡してくれました。

  その花がクリスマスローズです。



 クリスマスローズの花言葉は『不安を取り除いてください』です。






★バラ(白)

 バラは常緑低木ですが,その起源は明かではありません。

 花の女王・バラは各地で約1万種以上の品種がつくられ,
 世界中でもっとも多くの人に親しまれてきました。
 
 ツタンカーメン王の副葬品にバラ模様の衣装があったことから,
 歴史的に見ても古い時代から愛されていたようです。

 ローマ帝国の皇帝ネロはバラを溺愛して,
 バラを飾るために散財したことはよく知られています。


 キリスト教に伝わるバラの物語です。

  ひとりの召使いが,夕暮れの森の中を走っていました。

  この森は盗賊が出ることで知られたところです。
  
  ところが,全速力で走っていた召使いは,
  急に立ち止まって,その場に座り込んでしまいました。

  彼は夕べの祈りを忘れていることに気づき,
  聖母マリアにお祈りを捧げはじめたのです。

  これを森の影から見ていた盗賊たちは,
  召使いに襲いかかろうと腰を上げました。

  すると,一心に祈る召使いの背後に,
  気高い聖母マリアの姿が現れました。

  聖母マリアは召使いの頭の上に花輪をのせ,
  召使いが祈るたびに,花輪にバラの花を1輪ずつ加えました。

  しばらくしてバラでいっぱいになった花輪は
  光り輝いて,あたりを明るく照らしていました。

  盗賊たちはあまりの美しさと神々しさに,
  その場から急いで立ち去っていきました。  
 

 白いバラの花言葉は『私はあなたにふさわしい』です。