★ツバキ(椿)
日本の太平洋沿岸が原産地で,
17世紀にヨーロッパに渡っていった花木です。
小説『椿姫』の主人公は,1か月のうちで25日間は白いツバキ,
5日間は赤いツバキで身を飾っていた社交界の貴婦人でした。
『私の運命はあなたの手に』という花言葉は,椿姫をたとえたものです。
赤いツバキには『ひかえめな美徳』,
白いツバキには『最高の愛らしさ』という花言葉もあります。
この花言葉は,ツバキに香りがないことからつけられました。
★ナズナ(ペンペン草)
早春から花を咲かせるナズナは,春の七草のひとつです。
日本全国で広く見ることができ,道ばたなどにたくさん生えています。
三角形の実のところを少し引っ張って,
くるくる回すとペンペンと音がすることや,
実の形が三味線のバチに似ていることから,
ぺんぺん草という名前が付けられています。
ヨーロッパでは,実の形が財布に似ていることから,
「羊飼いの財布」と呼ばれています。
花言葉の『あなたにすべておまかせします』というのは,
財布を預けることからきているようです。
★パンジー
パンジーは,スミレの仲間では花が最も大きく,
イギリスやベルギー,フランスなどで積極的に品種改良が行われ,
たくさんの品種がつくられています。
寒さに強く,秋から初夏までの公園や花壇には欠かせない花です。
花の色には3色あり,別の呼び名はサンシキスミレ(三色スミレ)です。
パンジーが3色になったのは,
天使がこの花に3度キスをしたためといわれています。
パンジーには,ほとんど香りがありません。
昔はパンジーにも,スミレと同じよい香りがあったのですが,
多くの人がその香りを楽しむためにパンジーを摘んだため,
神様に「私の香りをなくしてください」と祈ったところ,
よい香りがなくなったという話があります。
花言葉は『私を思ってください』です。
★ハルノノゲシ(ノゲシ)
日本各地の畑や道ばたなどに普通に見られる野草で,
早春から,黄色い可憐な花を咲かせています。
暖かい地方ではほぼ一年中花を見ることができます。
葉が白っぽくて,切ると乳液が出るところがケシに似ているので,
ノゲシという名前が付いています。
都会の空き地や舗装道路のそばなど,どこにでも生えているので,
いつもこの花を見るたびに,
「雑草のようにたくましく」という言葉は,
この花のためにあると思っています。
雑草とは,人がつくり出した人工的な環境にいち早く適応して,
逆に,そうした環境を利用して繁栄している草花です。
★金のなる木(花月)
南アフリカのケープ州やナタール州が原産の多肉植物です。
高さは1〜3メートルくらいの低木で,
冬から早春にかけて星形の花を咲かせます。
日本では観賞用の植物として重宝され,
「金のなる木」とか「成金草」といわれています。
小さい若葉に5円玉をくぐらせて葉柄にはめると,
やがて葉が育って抜けなくなります。
花月の葉は,数年間落ちないので,
これを次々に繰り返えせば,
まるでたくさんの5円玉が木になっているように見えます。
こうして花月は,「金のなる木」として日本各地に広がりました。
花月は寒さに弱く,なかなか野外で花を咲かせることができません。
★ホトケノザ
早春に,畑の畦や道ばたで普通に見られるシソの仲間です。
世界に広く分布し,日本でも北海道を除く各地で見られます。
茎を取り巻くように付いた葉の形が,
まるで仏様が座る蓮華座(れんげざ)のように見えるので
「仏の座」という名前が付きました。
春の七草のひとつに数えられるホトケノザは,
コオニタビラコというキクの仲間でのことです。
本当のホトケノザは,とてもまずくて食べられないそうです。
これほど可憐なホトケノザですが,なぜか花言葉が見つかりません。
花の形が,ムーミンに出てくるニョロニョロに似ているという人もいます。
ホトケノザの花に,私は次のような言葉を想いました。
− ともに生きる喜びを知る −
★ハコベ
早春,真っ先に咲き始めるのが春の七草のひとつ,ハコベです。
1〜2センチの丸く小さな葉の中に,5ミリの小さな白い花が咲きます。
葉や茎はとても柔らかく,小鳥たちが好んで食べます。
西洋では,「ヒヨコの草」とか「小鳥たちのハコベ」といわれています。
植物には珍しくタンパク質が多く,ビタミンB,Cも豊富です。
小鳥たちも,ハコベがおいしくて栄養があることをよく知っているのでしょう。
花言葉は『ランデブー』です。
ヒヨコが,ハコベによく集まってくることからつけられたようです。
正岡子規も,次のように歌いました。
− カナリヤの餌に束ねたるハコベかな −
★フキ(フキノトウ)
頭をもたげていたフキのつぼみがふくらみ始めました。
フキの茎は地下にあり,花と葉だけが地上に出てきます。
フキノトウは,フキの地上に出た若い花芽のことです。
フキの語源は,実はよくわかっていません。
「汚れを拭くのに使った」とか,「果実が風で吹雪のように散る」と
いった説もあります。
フキは,日本原産の古来からある野菜です。
山野に自生する野生の草で,千年以上も前から栽培されてきました。
花言葉は『私を認めて』です。
「フキを花として認めて欲しい」という意味でつけられたのでしょう。
小林一茶の句をひとつ。
− 草の戸に 春は来にけり 蕗の薹(ふきのとう) −
★サクラソウ(ケショウザクラ)
サクラソウの仲間は,世界各地に500種以上,日本にも20数種が
分布する草丈の低い多年草です。
今回紹介するサクラソウは,プリムラ・マラコイデスです。
中国雲南省や四川省の原産で,19世紀末から20世紀初めにかけて
ヨーロッパに渡って品種改良され,現在多くの品種が育成されています。
早春に咲くサクラソウとして,人気が高い種です。
ギリシア神話では,
サクラソウは,花の女神・フローラの息子パラリソスをさします。
美しい若者であるパラリソスは恋人のニンフに失恋し,
意気消沈して,ついには死んでしまいます。
フローラはそんな息子を可哀想に思って,パラリソスの姿を
春一番に咲くサクラソウの花に変えたといわれています。
サクラソウの花言葉である『青春の始まりと悲しみ』は,
こうした物語からつけられたものでしょう。
★ナノハナ(アブラナ)
ナノハナはヨーロッパ原産の一年草または二年草で,
変異に富み,多くの栽培植物があります。
新鮮でつぼみの堅いものは,サラダやカラシあえにすると大変おいしく,
季節になると食料品として店先に並びます。
京都名物として,ナノハナを塩漬けにした「菜の花漬け」があります。
美しい黄色の菜の花漬けは,その色合いから黄金菜と呼ばれます。
ナノハナは早春に咲き,春を連れてくるような感じから
花言葉は『快活さ』とつけられています。
与謝蕪村は,ナノハナをつぎのように詠みました。
− 菜の花や 月は東に 日は西に −
★ウメ(紅梅)
ウメは中国原産で,万葉の時代に日本に入ってきました。
万葉の時代には花といえばウメのことで,
松竹梅として長寿の象徴にもなっていました。
『太平記』には,次のような話が書かれています。
菅原道真の屋敷は,都でも屈指の美しい紅梅があったことから,
「紅梅殿」とよばれていました。
しかし政争に敗れた道真は,九州・太宰府に流されることになり,
愛着のあるウメとの別れを惜しんで,
‐ 東風(こち)吹かば にほひおこせよ 梅の花
あるじなしとて 春な忘れそ ‐
と詠みました。
すると,梅の一枝が道真を慕って空を飛び,
太宰府にある住居の庭に根をおろしました。
花言葉の『忠実』は,この故事から生まれました。
★ウメ(白梅)
白梅には,つぎのような話があります。
京の東北院を訪れた僧が,白い梅に見入っていると,
家人が出てきて話しました。
‐ これは和泉式部が愛した白梅です。ここが御所だった頃に,
式部が自ら植えたものです。 ‐
その夜,院内の一室で法華経をよんでいる僧の前に,
式部の霊が現れ,供養のお礼をいった。
‐ 私は生前,恋多き女として奔放な生活を送っていましたが,
極楽では歌舞の菩薩となり,穏やかな時を過ごしています ‐
しみじみと語った式部は,夜明けとともに消えていきました。
ひときわ高い白梅の香りを残して……
★サザンカ(山茶花)
真冬のあまり花のない時期に咲く可憐な花です。
姫椿という別名があるように,ツバキによく似ています。
ツバキの花は枯れると,花の首ごとポトリと落ちますが,
サザンカは花びらが一枚ずつ,ヒラリヒラリと散っていきます。
漢名を山茶(さんさ)といい,
山茶花(さんさか)からサザンカになったといわれています。
香りはほのかで,どこかひかえめな感じがあることから,
『謙遜』という花言葉が生まれました。
冬に咲くサザンカといえば,想い出す歌があります。
‐ サザンカ サザンカ 咲いたみち
焚き火だ 焚き火だ 落ち葉焚き ‐
★キンセンカ
キンセンカは「金の盃」ともいわれる美しい花です。
南ヨーロッパ原産で,数多くの園芸種があります。
いくつかあるギリシア神話のひとつを紹介します。
水の妖精,ニンフのクリスティは太陽神アポロンに恋をしました。
しかしアポロンには,レウトコエという恋人がいます。
アポロンとレウトコエの仲をねたんだクリスティは,
レウトコエの父である王に告げ口をしました。
怒った王は,娘のレウトコエを生き埋めにしてしまいました。
自分の告げ口を恥じたクリスティは
アポロンを見続けて9日間,地面に座り続けていると,
クリスティはキンセンカに変わってしまいました。
キンセンカの花言葉は,『別離の悲しみ』『悲嘆』です。