《どんな疾患&症状なのかに戻る》

トップページに戻る




>

10 頭痛・顔面痛・   顔面の麻痺と痙攣


ジオプトリー   頭痛

 頭痛とは「頭部に感じる深部痛」と定義される。一般に、痛みは生態が疾病や外傷に出会った際に、自らを守るために注意をその部位に引きつける警報である。頭痛も例外でなく種々の疾患にともなって現れる。そして、中には頭蓋内の重大な器質的疾患が存在する場合もある。しかし、多くの場合頭痛の原因は筋収縮性頭痛、血管性頭痛(片頭痛を含む)によるものである。
 これらの頭痛は体質やストレスと関連が深いため、鍼灸治療は良く奏効し、鎮痛効果だけでなく、予防効果も期待できる。

 A 筋収縮性頭痛

 頭蓋筋、頚部筋の持続的収縮により頭痛が出現する。特に側頭筋、(頭)半棘筋、僧帽筋、胸鎖乳突筋などの収縮が臨床時に多く見られる。痛みの発生には以下のような起序が考えられている。

 1. 循環障害

 頭頸部の持続的な筋の収縮により、筋内の循環障害が起こり、乳酸などの発痛物質により痛みが出現する。

 2. 神経エントラップメント

 頭頸部の筋を貫通する神経は周囲の筋の持続的収縮により絞扼され、痛みを生じる。特に頭半棘筋による代行の神経のエントラップメントは比較的良く遭遇する。

 3. 関連痛

 頭頸部にある筋肉は、頭蓋内組織に分布する感覚神経と同じ神経支配(三叉神経、舌咽神経など)を受けている。従って頭頸部の筋の収縮の程度が強くなり何らかの有害刺激を生じるようになると、関連痛として頭痛を起こす。頭頸部の持続的な筋の収縮が起こる原因としては以下のことが考えられている。

 (1) 不良姿勢

 長時間頭頸部を一定の位置に保っていること(テレビを見る、読書、寝違いなど)あるいは職業病(キーパンチャー、タイピスト、自動車運転手など)に起因する。

 (2) 器質的疾患

 変形性頸椎症、頚部の外傷性疾患(鞭打ち損傷など)は、頚部諸組織に器質的変化を及ぼし、それが有害刺激として頭頸部筋の収縮・疼痛をもたらす。

 (3) 精神的緊張

 精神的緊張によっても頭頸部の筋の収縮が起こる。特に筋収縮性頭痛の患者では、精神的にリラックスすることが困難なものが多い。これらの患者は頭痛以外に不安感や鬱、睡眠障害などをともなっていることもある。

 自覚症状としては、拍動性で両側性・持続性の、バンドなどで締め付けられるような痛みや頭重感などで肩こりを伴うことが多い。その他頚部通、眩暈、嘔気などを伴うこともある。他覚所見としては、頭頸部の筋の過緊張や該当筋の圧痛・硬結などがあげられる。筋電図では後頭部や頚部に高い筋活動電位を示す。頭痛が拍動性である場合は、血管性頭痛が第一に考えられるが、筋収縮性頭痛であっても血管の搏動を伴うタイプに混合性頭痛もあるので注意をする。また、筋収縮性頭痛に類似した疾患に心因性頭痛がある。心因性頭痛でも頭頸部の筋緊張が見られるが、その原因に心理的葛藤の占める割合が大きい。筋収縮性頭痛では鎮痛消炎剤により痛みの軽減が得られるが、心因性頭痛では抗鬱剤の服用で初めて軽減する。

 B 片頭痛

 頭蓋の動脈(浅側頭動脈、後頭動脈、眼窩上動脈など)内孔が拡大して痛みが出現する。片頭痛特有の症状は血管反応の異常性に起因する。即ち、発作前駆期には脳血管が収縮し、その結果生じる脳虚血により閃輝暗点、視野障害が出現する。引き続き頭蓋内外の血管が拡張し頭痛発作となる。
 血管の異常反応が起こる原因としては、血管内のセロトニン量の過不足が問題になっている(セロトニンの増加により血管は収縮し、現象により拡張する。)

 自覚症状は、発作性・拍動性の激痛、嘔吐、嘔気などである。片側性に起こることが多い。症状は閃輝暗点、視野障害、羞明などである。時には知覚異常、失語、不全麻痺なども伴う。他覚所見には脳波の異常(30〜60%)該当血管の圧迫による痛みの消失あるいは軽減、エルゴタミン製剤(子宮収縮止血剤)による症状の軽減(血管収縮作用による)などがあげられる。

 C 血管性頭痛(偏頭痛を除く)

 種々の疾患によって頭蓋の血管に拡張が起こり、二次的に頭痛が起こる。二次的血管性頭痛には以下のものがある。

 1.感染・発熱

 肺炎、扁桃炎、インフルエンザなど、種々の感染症で起こるが、最も多く見られるのが「風邪によるものである。」

 2. 低酸素状態

 貧血、肺換気障害など。

 3. 中毒

 アルコール(二日酔)、一酸化炭素、鉛、ベンゾール、塩化炭素

 4. 血圧上昇

 高血圧によって頭痛が生じることは実際には少ないが、拡張期血圧が110mmhg以上になると頭痛を起こすことがある。

 拍動性の頭痛以外に、偏頭痛のような前駆症状や随伴症状はない。原因疾患に付随する症状が診断のポイントとなる。鎮痛剤による頭痛の消失は血管性頭痛を否定できない。軽度の血管性頭痛は、鎮痛剤が奏効する。

 顔面痛

 顔面には眼・耳・鼻口など重要な感覚器官があり、また、顔面筋によって種々の感情を表現したり、会話をしたりする。これらの潜在、複雑な機能のため、顔面の痛みも種々の複雑な要因がからみ合っていることもある。心理的葛藤が痛みという形で顔面に現れている場合もある。
 以下三叉神経痛、舌咽神経痛、非定型的顔面痛について述べる。

 A. 三叉神経痛

 三叉神経痛は、大きく本態性三叉神経痛と症候性三叉神経痛に分けられる。症候性三叉神経痛は、中毒(鉛、アルコール、ヒ素など)、感染、インフルエンザ、梅毒、帯状疱疹、結核など)、腫様、動脈瘤などの疾患から二次的に起こるものである。
 本態性三叉神経痛の原因は過去に置いては不明とされていたが、近年脳底動脈系の血管芽三叉神経根を圧迫するために、激痛が出現することが確認されている。圧迫血管は、殆どの場合、上小脳動脈であり、ついで前下小脳動脈が多い。まれに脳底動脈や垂体静脈による圧迫も見られる。

 三叉神経痛は以下のような特徴がある。

 1. 発作性の疼痛

 発作性の顔面痛が三叉神経の領域に沿って出現する。間欠期には無症状である。

 2. 疼痛部位({トリガーゾーン})の存在

 疼痛は咀嚼、会話、欠伸などの顔面の運動刺激や接触などの感覚刺激によって誘発される。

 3. 痛み以外に症状がない

 一般的に、三叉神経の領域の知覚鈍麻や筋力低下は伴わない。三叉神経痛の痛みは強烈であり、激痛発作のため洗眼が出来ない、歯が磨けない、食事が出来ないということも少なくない。痛みは季節によって緩解、増悪を示す。血管性顔面痛でも突発的に痛みが顔面に出現するが、拍動性であり、痛みは前頭部と眼部に限局している。

 B. 非定型的顔面痛

 原因不明であるが、疼痛が頭部や顔面部に分布する神経や血管の走行と一致せず、訴え方も奇妙である為心因的要因が大きいと考えられている。

 神経症的傾向を持つ、30〜50歳代の女性に多く見られる。痛みの部位は主に顔面の反側で、眼の奥、眼窩周囲、側頭部、頬部、時には同側の首、肩、上肢にも広がる。この疾患に特有の症状をあげると、

 1.深部痛

 神経痛のように発作的でなく、持続性、深在性のうずくような、締め付けられるような痛みである。

 2. 自律神経症場

 痛みと共に血管運動障害、顔面紅潮、血膜充血、流涙、鼻汁などの自律神経症場が見られる。これらの症状は感情の変化、疲労、気候の変化などで出現したり増悪したりする。

 C. 舌咽神経痛

 原因不明であるが、三叉神経痛と同様に、舌咽神経への血管の圧迫説が考えられている。

 非常にまれな顔面の神経痛で、三叉神経痛の1000分の1の頻度で出現する。痛みは耳、舌根部、咽喉部、頚部、下顎部などに出現する。嚥下時、会話時、咳嗽時など、痛みが誘発されることが多い。この疾患の特徴として

 1. 発作性の頭痛

 電撃様の痛みが数秒から数分持続するが、緩解期には全く痛みはない。

 2. 疼痛誘発部位の存在

 口蓋扁桃、絶飲部に疼痛誘発部位が存在するため、嚥下時、会話時、咳嗽時に痛みが出現する。三叉神経痛と同様に痛みが激烈であるため患者は飲食を避け、急速に消耗する。また、疼痛発作時に徐脈、失心を呈することがある。


 顔面の麻痺と痙攣

 顔面神経麻痺には末梢性のものと中枢性のものとがある。中枢性顔面神経麻痺の原因は種々あるが、脳血管障害によるものが多い。ここでは末梢性顔面麻痺の中でも最も多く見られる、ベル麻痺について述べる。また、顔面痙攣についても少々説明を加える。

 A. ベル麻痺

 原因不明である。顔面に冷たい風が当たって麻痺が起こることから、循環障害が関連しているのではないかという節がある。

 冷たい風に当たったことを切っ掛けに突然生じる顔面の麻痺。上眼メンキン上顔面筋、下顔面筋共麻痺するため、食物、飲み物が口からこぼれる。眼瞼を完全に閉じることが出来ない(兎眼)ため眼が乾燥する、充血するなどを訴えることも多い。顔面の麻痺以外、(1)舌線3分の2の味覚障害、(2) 唾液分泌、(3) 聴覚過敏、(4) 涙液分泌低下などを伴うこともある。

 B. 顔面痙攣

 椎骨脳底動脈の動脈瘤、小脳橋角部腫様などによって顔面神経が圧迫されて起こるが、多くの原因不明である。ヒステリーなど心因反応として起こる場合も少なくない。

 中年以後のの女性に多く、多くは一側性の顔面筋の間代性痙攣である。時に強直性痙攣を起こすこともある。眼輪筋のみが軽度に収縮するものから、顔面反側が大きく収縮するものまで程度は様々である。