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2. 坐骨神経痛・周辺痛



[A] 坐骨神経痛

 坐骨神経は、人体最大な神経でその為に色々な影響を受けやすく、腰部から殿部、坐骨結節直下、大腿後側中央、膝窩部、下腿中央部、外踝及び足小指側に著明な圧痛があり、その痛みは電撃痛の激しいものから、重だるい様な緩慢な痛みまで多種に亘る。
 その原因としては、腰部、腰椎部の異常、姿勢、腰部の冷却、等々種々雑多なものがある。

(1) 根性坐骨神経痛

 下肢に分布する坐骨神経を第4腰神経から第3仙骨神経は、前根と後根に別れて赤髄を離れる。馬尾神経として脊柱管内を下行した後、腰椎4から腰椎5椎間孔から第3仙骨孔のレベルで、それぞれ脊柱を貫く。

 この部分が解剖学的に神経根といわれる部位である。理論的に考えれば、馬尾から各、椎間孔のレベルに到るどの部位で神経が障害されても、坐骨神経の根症状は発言する。しかし、実際に腰仙椎の周辺機構がこうむる日常的なストレスの変化は、ほとんどが腰椎4、腰椎5、仙椎1椎間板レベルの椎間孔付近で起きる。従って、傷害される神経の大多数は、それぞれの椎間板に接して走る腰椎4、腰椎5、仙椎1神経である、症状発現の頻発領域は当該神経の支配域であるということになる。この部位での神経の障害のされ方の代表的なものが、腰椎椎間板ヘルニヤである。つまり、ヘルニヤによる機械的刺激が、神経根及びその周辺組織に浮腫から炎症、癒着に亘る様々な変化を引き起こし、症状を発言させることになるわけである。但し、神経根への単純刺激が、即座にこうした病理学的変化を生じさせ、疼痛を引き起こすわけではない。

 発症には、反復、持続する刺激や循環障害などの複雑な因子の絡まりが必要であるとされる。要するに周辺に起こるポピラーナ疾患のうちで、この部で神経根刺激を起こしそれを通じて坐骨神経痛発症に至らしめる可能性を持っているのは、椎間板ヘルニヤだけではない。所謂変形性脊椎症の骨棘、椎間関節症、脊椎辷り症や腰椎不安定症における椎間孔周辺組織の増殖性変化による狭窄などは、いずれもこうした可能性を有している。しかし、根性坐骨神経の原因で最も良く報告を見るのは、何といっても椎間板ヘルニヤと変形性脊椎症である。

 ただ神経根が椎間板に機械的刺激を及ぼす仕方にも、色々ある。傍流という判断に迷うものから、髄核脱出という明らかなものに到るヘルニヤの状態、更にはその突出方法などにもバリエーションがある、変形性脊椎症についても同様のことが考えられる。結局根性の坐骨神経痛の病体を機械的刺激のみならず循環障害などを含む複合障害であると捕らえて、先ずは対処してみるのが実際的であると考えられる。勿論、手術など一部別の対処を要する重篤な椎間板ヘルニヤなどは例外である。

 根性坐骨神経痛の特徴的な臨床症状は、一連の根症状、即ち、神経走路に沿った下肢への放散性の痛み及び痺れ感である。これらの症状は体動で増幅されることが多い。
 所見としての特徴は、神経走路に沿って明白に認められる圧痛の他、神経障害としての知覚障害、筋力低下、筋萎縮、アキレス腱反射低下である。その他、下肢伸展挙上テスト陽性があげられる。

(2) 梨状筋症候群

 腰椎4、仙椎3神経は、それぞれ椎間孔を出た後仙骨神経叢を形成し、再び合流して坐骨神経となって下肢に分布する。この間の障害もまた、いずれも坐骨神経痛を起こしうる可能性はある。しかし、最も良く知られたものは、梨状筋症候群と呼ばれる ものである。これは、神経が周辺組織との解剖学的関係から機械的刺激を受けやすい部位で、神経炎等の神経障害を起こす、絞扼性神経障害と呼ばれるものの代表的疾患である。即ち、一本の太い神経束となった坐骨神経は骨盤内の閉鎖口で梨状筋と骨の間を貫く。この部で梨状筋の緊張や肥厚などがあり、それにより坐骨神経が骨との間で絞扼、刺激されることになる。

 梨状筋の状態は、明白に梨状筋に直接負荷のかかる姿勢等の日常的な力学的ストレス以外に、脊椎の不安定性や支配神経の上位部での障害、更には股関節の異常など、間接的な要員にも左右される。従って、診断に当たってはこれら一連の間接的な病体が除外されなければならない。
 
[B] 周辺痛

 坐骨神経痛と共に述べられる下肢神経痛の代表的な症候群に、大腿神経痛、閉鎖神経痛、外側大腿皮神経痛この他、上記神経痛の疼痛域をはじめ下肢領域のいずれの部位にも、症状を現す可能性のある関連痛がある。
 神経が障害を受ける椎間孔の高位が異なれば、当然当該神経根に支配される領域に神経痛が起こってくることになる。因みに、三つの代表的な下肢神経痛群に関して言えば、大腿神経は腰椎1、腰椎4神経に、閉鎖神経は腰椎2、腰椎4に、外側大腿皮神経は腰椎2、腰椎3神経に支配される。




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