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[5] 糖尿病



糖尿病 とうにょうびょう Diabetes Mellitus 糖の代謝の異常によっておこる病気で、血液と尿の中に大量の糖がまざる。たとえば、ごはんを食べると、米の栄養分であるブドウ糖(グルコース)が体のあらゆる組織にとりこまれ、そこで必要なエネルギーがつくられる。このブドウ糖の細胞への取り込みを促進するのが、インスリンというホルモンで、膵臓(すいぞう)で分泌される。

糖尿病の発症 インスリンは膵臓(すいぞう)でつくられるホルモンで、血液中のグルコース(ブドウ糖)の末梢組織への取り込みをうながす役割をもつ。食べ物が消化されると(1)、血糖値が上昇し(2)、膵臓からインスリンが分泌され(3)、末梢組織でグルコースの取り込みを促進する。とりこまれたグルコースは、エネルギー源として利用されたり、貯蔵糖であるグリコーゲンに転換される。グリコーゲンは肝臓や筋肉にたくわえられ(4)、必要に応じてエネルギー源としてつかわれる。インスリンの分泌はホルモンによって調節されており、血糖値がさがると(5)、膵臓からのインスリンの分泌量は少なくなる(6)。膵臓のインスリン生成がじゅうぶんでないか、あるいはインスリンの作用がじゅうぶん発揮できない(インスリン抵抗性)のが糖尿病である。食物が消化管から吸収されると、血中のグルコースが上昇する(A)。膵臓からじゅうぶんな量のインスリンが分泌されない、または末梢組織でインスリンの作用がじゅうぶんに発揮されない(B)と、血糖値があがり(C)、血液中のあまったグルコースが尿中に排出される(D)。グルコースの代わりにエネルギー源として脂肪が分解され利用されることもある。重症になると分解された脂肪の代謝物であるケトン体が尿中に出たり、血液中で高くなってケトアシドーシスが生じることもある(E)。さらに血中のケトン体がふえると、昏睡(こんすい)状態になって死亡することもある。

糖尿病はこのインスリンが不足したり、じゅうぶんに作用しないためにおこる病気である。また、インスリンは細胞の膜でインスリン受容体というタンパク質とむすびつくが、この受容体に異常があると、インスリンの働きがわるくなる。そのためブドウ糖が体の中で利用されず、血液中に大量にたまり(高血糖)、やがて尿にまじって排泄(はいせつ)される。

糖の代謝の異常は、食べすぎ、肥満、運動不足、遺伝など、いくつかの要素が重なっておこると考えられている。糖尿病の影響は目、腎臓、心臓、手足などにおよび、妊娠していると危険である。ただしく治療をすれば、これらの合併症をおさえることができる。

糖尿病には、1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病:IDDM)と、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病:NIDDM)がある。1型糖尿病は、かつては若年型糖尿病とよばれていたもので、おもに子供におこる。発病と進行がはやい。2型糖尿病は、かつては成人型糖尿病とよばれ、おもに40歳以上の人におこり、進行はおそい。症状があらわれず、尿や血液の検査で糖がでて、はじめて発見されることも多い。日本では患者の95%以上がインスリン非依存型である。

原因


インスリンの分泌 インスリンを分泌する、ヒトの膵臓のランゲルハンス島。青と白の線は、インスリンを全身の組織にはこぶ血管。インスリンが不足したり、じゅうぶんに作用しなかったりすると糖尿病になる。日本の糖尿病患者は約700万人にものぼる。

1型糖尿病は、膵臓になんらかの障害がおこり、インスリンがつくられないためにおこる。ウイルスの感染あるいは自己免疫疾患が原因と考えられている。インスリン非依存型では、インスリンはつくられてはいるが、働きがわるいため、ブドウ糖が組織にとりこまれない。この型は肥満の人におこりやすい。

症状


2型糖尿病は症状がでないことが多く、長い間気がつかないことが多い。しかし、尿がふえてトイレへいく回数がふえたり、のどがかわいたり、体重がへって、疲れやすいというような症状があらわれたら、すでに糖尿病にかかっていると考えられる。そのまま治療しないでいると、さまざまな合併症がおこる。

高血糖がつづくと、ケトン体という酸性の物質が大量に血液の中にたまることがある。ケトン体は血液を酸性にして、脳の働きを低下させるため、意識がなくなったり、呼吸困難をおこし、死にいたる。糖尿病性昏睡というこわい病気である。また糖尿病の場合、脂肪の代謝にも障害があることが多い。そのため、コレステロールがたまって動脈硬化や心筋梗塞(こうそく)がおきたり、高血糖が腎臓の働きをわるくして、腎不全をもたらすこともある。手足の末梢神経が障害されて、しびれや血行障害がおこり、ときには切断しなければならないことがある。また、目の血管も障害されて失明することもある。そのほか、白血球の働きも低下して、感染がおこりやすくなる。妊娠している女性の場合は、胎児や母体が危険な状態になることがある。

診断


2型糖尿病で症状がでないものは、尿中のブドウ糖をはかることによって発見される。この検査で大量の糖がでた場合は、1晩絶食したあと血糖値をはかる。血糖値が高ければ、糖尿病だということになる。正確に診断するには、ブドウ糖負荷試験をおこなう。大量のブドウ糖を水にとかしてのんだあと、血糖値の変化をしらべる。

治療


ただしい治療をうけて、血糖値をほぼ正常にたもつことができれば、患者はふつうの日常生活をおくることができ、長期間にわたる症状にくるしむこともない。

糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法である。食事療法はバランスのよい食事を規則ただしくとることが大切である。急激に血糖値を上昇させる砂糖や果物の糖はひかえ、穀類から糖分をとるようにする。運動療法は、筋肉をうごかすことによって、血糖が代謝されるようになるため、血糖値を下げる効果がある。ただし、場合によってはストレスとなり、逆に血糖値を上げるおそれもあるので、医師の指示にしたがっておこなう。

インスリンが不足したり働きがわるい場合は、インスリンを注射して補給する。1型糖尿病の人には、かかせない治療法である。インスリン注射は、太ももなどに自分でおこなう。インスリン非依存型の人が運動療法や食事療法で血糖をコントロールできない場合は、経口血糖降下薬がつかわれる。最近では、おなかの皮下などに翼状針(針を皮膚に固定するため2枚の羽をつけた注射針。ばんそうこうで羽をとめる)を固定しておいて、きめられた時間にきめられた量のインスリンを、携帯用の小さなポンプで注射する方法もある。