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[1] 生活習慣病とは


成人病から生活習慣病へ


成人病という用語は昭和30年代の初めに、厚生省によって提唱され、「主として、脳卒中(→ 脳血管障害)、癌、心臓病などの40代前後から死亡率が高くなり、しかも全死因の中で上位を占め、40〜60歳くらいの働き盛りに多い疾患」と定義されている。近年は、加齢(→ エージング)にともなって罹患(りかん)率、有病率が高くなる、高血圧や糖尿病、高脂血症などもふくんだ疾患群として認識されている。

しかし最近は、加齢にともなって増加するこれらの疾患が、小児成人病のように低年齢層にも発症する傾向があり、成人病という用語が現状にそぐわなくなってきた。また、癌の中でも、大腸癌や乳癌など、高脂肪、高タンパクといった食生活が影響しているものがふえてきた。そこで、加齢よりも生活習慣に重点をおいた概念として、生活習慣病という用語が登場した。

さらに、これまで成人病対策として、定期的な検診による「早期発見、早期治療」をめざす「二次予防」に重点がおかれていたのに対し、生活習慣を改善することで、疾患の発症や進行を予防するという「一次予防」の考え方が重視されるようになったこともある。二次予防は、癌死亡率の低下など、一定の成果をあげたが、一方で高齢化社会の到来もあり、なんらかの病気をもつ人はますますふえつづけ、医療費も高騰している。生活習慣の改善により、病気の発症を未然にふせぐことは、医療費の節約にもつながるわけである。

 生活習慣が大きく影響する疾患

食習慣:インスリン非依存型糖尿病(→ 糖尿病)、肥満症、高脂血症(家族性のものをのぞく)、高尿酸血症、循環器病(先天性のものをのぞく)、大腸癌(家族性のものをのぞく)、歯周病など。

運動習慣:インスリン非依存型糖尿病、肥満症、高脂血症(家族性のものをのぞく)、高血圧症など。

喫煙:肺扁平上皮癌(→ 肺癌)、循環器病(先天性のものをのぞく)、慢性気管支炎、肺気腫、歯周病など。飲酒:アルコール性肝疾患(→ 肝炎)など。

子供のころからなれしたしんだ生活習慣を改善することは、なかなかむずかしい。生活習慣病を予防するためには、あやまった生活習慣がさまざまな病気の原因になることを個人個人が自覚し、できれば子供のころから肉食にかたよらない栄養バランスのよい食事をこころがけ、ふだんから適度な運動をして、喫煙はさけ、過度なアルコール摂取はつつしむといったライフスタイルを維持していくことが大切である。

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脳血管障害 のうけっかんしょうがい Cerebral Vascular Diseases 脳の血管の異常によっておこるすべての疾患をいう。一般的には脳卒中とよばれることも多い。脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血、一過性脳虚血発作、脳動脈硬化症(→ 動脈硬化症)、高血圧性脳症、硬膜下出血、硬膜外出血、静脈洞血栓症、脳血管の先天奇形などがあるが、多くみられるのは、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血である。

    
三大疾患


1 脳出血

脳出血は、脳の血管がやぶれて脳の中に出血するもので、多くの場合、高血圧が原因となる。突然の頭痛、めまい、嘔吐(おうと)などからはじまり、手足の麻痺や意識障害、痙攣(けいれん)、失語などの症状をしめすようになる。発作は活動中や冬季におこることが多い。

2 脳梗塞

脳梗塞は、脳の血管がつまって、そこから先に血液がながれなくなり、脳の組織が壊死(えし)する。動脈硬化(→ 動脈)によって血管の壁が厚くなって血液の流れがわるくなる脳血栓症と、心臓や頸(けい)動脈などにできた血栓が脳にながれて血管をつまらせる脳塞栓症とに区別される。脳血栓症は徐々に形成されるので、症状は片麻痺(へんまひ)(→ 麻痺)、言語障害(→ 失語症)などがほとんどで、意識障害はあまり強くない。一般に、前駆症状として一過性脳虚血発作がみられる。いっぽう、脳塞栓症は突然発症することが多い。

3 クモ膜下出血

クモ膜下出血は、脳や脊髄上部をつつむクモ膜の内側にある動脈に瘤(こぶ)ができ、これが破裂して出血するもので、突然のはげしい頭痛や嘔吐をともなって発症することが多い。発作以前に動脈瘤の圧迫症状として、瞳孔がひらいたりする動眼神経麻痺、視野や視力の障害などがおこることもある。昏睡状態になると、予後はよくない。

  ふえる後遺症

脳血管障害は長い間、日本人の死因の第1位を占めていたが、1997年現在は、癌(がん)、心疾患についで第3位である。死亡率の減少は診断、治療法の進歩によるところが大きく、発症率そのものはへっていないとされる。その分、失語などの言語障害、片麻痺、痴呆などの後遺症になやむ患者はふえている。→ 脳卒中

近年では、血圧管理が進歩した結果、以前は圧倒的に多かった脳出血がへってきている。しかし、食生活の変化、日本人の高齢化などが原因で、脳梗塞の比率が高くなっている。また、日本では、脳血管性痴呆が痴呆の多くを占めている。動脈硬化にもとづく脳梗塞の多発が、痴呆をひきおこす重要な原因のひとつと考えられている。

脳卒中のリハビリテーション


 治療

脳卒中の治療の原則は、なんといっても発症後3〜6時間の間に、最初の治療をうけることにつきる。このときの治療によって、その後、よい効果があらわれることもあり、悪化することもある。また、最初の診療のタイミングをうしない、治療がおくれると、回復の見込みがなくなったり、悪化することもある。したがって、発症後6時間以内というのは、脳卒中の予後にとってきわめて重要な時間である。これをゴールデンタイムとよぶ医師もいる。

ゴールデンタイムの間に、できるだけはやく開頭手術をおこなって、障害をとりのぞくことがのぞましいが、障害の部位によってはそれがむずかしい場合もある。そのようなときは脳血管内治療をおこなう。

脳血管内治療とは、障害のおきた脳の血管内にカテーテル(細い管)をとおし、直接薬剤を注入して血管につまった血栓をとかしたり、狭くなった血管を広げたりする方法である。頭蓋骨(ずがいこつ)に小さな孔(あな)を開ておこなうので、開頭手術の必要はないが、臨床使用されるようになってからまだ10年ほどなので、治療にともなうさまざまな問題がある。今後、それらの問題が解決されれば、かなりの治療効果が期待できると考えられている。

  回復期の注意

脳卒中のリハビリテーション(リハビリ)は、多くの専門家の手をかりておこなわれる。とくに、最初の半年は、回復がもっともはやくすすむため、神経科医、理学療法士(→ 理学療法)、言語療法士、そのほかの専門の医療スタッフの協力がかかせない。

脳卒中の発作がおきると四肢に麻痺がおきたり、関節がちぢんだりして、運動能力がいちじるしくおとろえる。以前は、脳卒中の症状が回復してからリハビリをおこなうことが多かった。しかし、長期間安静をつづけていると、障害のおきた部分がますます悪化し、じゅうぶんな回復がむずかしくなることがわかり、最近では、早期にリハビリをはじめるようになっている。症状がまだのこっていても、病期に応じたプログラムをくむことによって、リハビリはじゅうぶんおこなえる。

  リハビリの実際

四肢の運動能力を回復する第一歩は、とにかく関節をうごかすことである。うごかさないでいると、関節はどんどんちぢんでかたまり(拘縮)、回復できなくなってしまう。はじめは、他人の力をかりて、関節がうごく範囲で、四肢の伸縮や回転運動をおこなう。また、患部をあたためる温熱療法もおこなわれる。この訓練からはじめて、機能の回復の程度をみながら、次のプログラムへとすすんでいく。

言葉の障害には、発音するための筋肉の麻痺によるものと、言葉の理解ができなくなるものとがある(→ 失語症)。言語療法士だけではなく、家族が協力して、ゆっくりやさしく話しかけ、あせらずに話をきくことが、回復につながる。運動障害にしても言語障害にしても、回復の進み方は、患者個人個人によって大きくことなる。患者が人間らしい生活をとりもどせるよう、その人に適したリハビリをおこなうことが大事である。