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針ノ木岳から烏帽子岳縦走


山行日  8月7日(金)〜10日(月)
山行先  針ノ木岳〜烏帽子岳縦走(山域 北アルプス)
天候   7日  豪雨後晴れ  8日 晴れ9日 晴れ 10日 晴れ
行 程

08/07
 信濃大町駅→扇沢(7:30発)→大沢小屋(9:05着〜11:00発)→大岩(13:00)→針ノ木峠(13:50)→針ノ木岳(14:50)→針ノ木小屋(15:30) 宿泊

08/08
 針ノ木小屋(6:30発)→蓮華岳(7:30着〜7:45発)→北葛乗越(9:15着)→北葛岳(10:45着)→七倉乗越(11:45着)→七倉岳(13:20)→船窪小屋

08/09
 船窪小屋(4:45発)→船窪乗越(5:45着)→船窪岳(7:35着)→不動岳(11:05着)→南沢岳13:20着)→烏帽子岳分岐(15:00着)→前烏帽子岳(15:15着)→烏帽子小屋(15:30着) 宿泊

08/10
 烏帽子小屋(6:00発)→ブナダテ尾根登山口(9:00)→高瀬ダム(9:30着)―タクシー 6、300円→大町温泉薬師の湯(入浴休憩)→信濃大町駅

感 想

08/07

 早朝、扇沢に到着して早速朝食を取りこれからの登山準備をする。するとパラパラと大粒の雨が降り出してきた。それがみるみる激しくなってきて一向におさまる気配はない。更に雷も鳴ってきて雨は止むどころか、行く手を阻むように容赦なく降り続ける。山行の途中で雨に降られたらあきらめもするが、最初から雨ではどうも登山意欲が消失して軟弱な気持ちになり、登山ルートを変更しようかと考えてしまった。何しろ急登が続く雪渓の登りは標高差1400Mもあり雨の中野雪渓登りを想像しただけで気持ちがないできてしまった。 (^^;) しかし、考えた末にやはり予定通りに大雪渓を登ることとして、雨の中を飛び出した。樹林の中を進むと益々雨は酷くなり、雷鳴と共に激しく私達をたたきつけてくる。もう雨具を通して身体は雨と汗でビッショリとずぶぬれになってしまった。道は鳴沢岳の斜面を横切るようにして樹林帯の中をゆっくりと登って行く。やがてガレた鳴沢に出た。川が増水してどこから徒渉して良いか迷ってしまう。川上に徒渉路を求めて登っていったが、激流が渦を巻いていてとても徒渉できそうにもないので今度は川下に歩いて行くとどうにか顔を出している石ずたいに徒渉することができた。

 雷雨の中をどうにか大沢小屋に到着した。小屋の前には、この針ノ木岳をこよなく愛した百瀬晋太郎の「山を想えば人恋し、人を想えば山恋し」のレリーフがあある。雨宿りも兼ねて小屋に立ち寄り登山道の状態を聞くと、この先の沢が増水していてとても危険な状態であり、橋が流されていて登山は勧められないと小屋番の威勢の良いお兄さんが大きな声で言っている。仕方がないので当分ここで様子を見ることにした。すると小屋番さんが様子を見てくると雨の中を飛び出していった。雨は勢いを衰えさせずに益々激しく降っている。この雨の中を登ってきた登山客が一人、二人と増えてきて小屋は十人ぐらいにもなっただろうか。やがて1時間ぐらいして小屋番さんが戻ってきて流されていた橋を何とか渡して有るから、雨が小降りになり次第登山をしても良いと許しが出た。そうこうしているうちに雨も止んで陽も射してきたので小屋番さんにお礼を言って登山開始となった。さっきまでの雨が嘘のように良いお天気になってお山が今度は優しく迎えているようで、山の天気は本当に分からないことをしみじみと感じた。樹林帯を過ぎると右の斜面から沢水が滝のように流れてきて、シャワーのように身体を濡らしてしまった。夏なのでかえって気持ちが良いから別段気にはならなかった。沢に出ると流された橋を渡して有るという問題の地点に到着した。な、な、何と見ると橋と言っても鉄梯子が置いて有るだけで、バランスを崩したら怒涛もろとも激流の中に落ちてしまって一巻の終わりである。私は恐いので四つん這いになってその梯子の橋をそろそろと渡って行った。改めて鉄砲水の恐ろしさを知らされた。ガレ場を少し歩いて行くと大雪渓の出発点に到着した。今年は雪が少ないので雪渓も例年と比較すると規模も小さいそうである。軽アイゼンを装着して急登の雪渓歩きの始まりである。雪と言ってもこの時期の雪は土混じりで斑状になっていてとても汚い、5月頃の雪渓とは美しさが一団と違うが、ガレ場が全部雪で埋まっているので歩きやすいので安心して歩ける。雪渓を通してくる風がひんやりとしていてとても気持ちがよい。空を見るとまるで秋の空のような雲がポッカリと浮かんでいて、雪渓の白と空の青とがコントラストの美をていしていてきつい急登も気にならない。斜度のきつい雪渓も快調に一歩、一歩登って行く。この雪渓は白馬岳の雪渓、剣岳の雪渓と並んで日本三大雪渓で遅くまで雪が残っているのだそうである。そんな雪渓もやがて終わって岩場の続く登りとなった。斜度は益々きつくなりペースもゆっくりと着実に一歩を置くようになり、上へ、上へと身体を勧めて行く。岩稜帯から今度は砂礫帯になり、ジクザクの急な道を登り詰めるとそこが針ノ木峠である。変化に富んだ登りもここで終わりで、休憩をして小屋にザックを置いて針ノ木岳のピークを目指して登ることにした。空身なのでドンドンと登ることが出来た。稜線に出てハイマツの少しきつい登りに出る。振り返るとぽつんと針ノ木小屋と大きな山容の蓮華岳が見える。やがて道がハイマツの間から抜けて扇沢側のガレた斜面に出る。ここまで来るとのぼりも緩やかになって正面に針ノ木岳から続くスバル岳の荒々しい稜線が見えてくる。足もとが茶色の土からグレイの岩稜に変わると登りも少しきつくなり、一歩、一歩と高度をかせいでいく。道は次第に稜線に近づくようにして針ノ木岳の山頂に出る。この山頂は2回目で何年前だったか、白馬岳から縦走をしてきて最後のピークが針ノ木岳であった。その時にこの先の蓮華岳を越えて烏帽子岳まで近いうちに是非、やってみたいと思っていたが、今日ここにはからずも実現したのである。視界は360度の好展望で、鳴沢岳、赤沢岳、蓮華岳等々北アルプスの山々がその雄姿を見せている。寒くなってきたので早々に引き返して針ノ木小屋に向かった。小屋の前からは遠くに誰にでも分かる槍ヶ岳のとんがった穂先が顔を出している。小屋は登山客も余りいなくてゆっくりと休むことが出来た。夕食も山小屋としては豪華で疲れた身体を精養するのに十分なメニューである。夕食も食べて早めに床についたが疲れているのか、なかなか寝付けなかった。

08/08

 今日はコマクサの咲く蓮華岳を経て船窪小屋に行くコースで歩程時間も縦走
中で一番短いコースである。蓮華岳は針ノ木峠から頂上が見えるようであるが
標高差250Mもあって、見えているところは頂上までの3/1のところで初
めは小さなジクザクの急登が続いて、朝身体が十分に目覚めていないのですご
く堪える。

 一汗かく頃には斜面も緩くなってきて、いつのまにか振り返ると峠は見えな
くなっており、針ノ木岳とスバリ岳の尖ったピークが見えている。稜線は広く
2754Mのピークを過ぎると白い岩クズを敷き詰めたような緩やかな斜面が
頂上まで続く。まるで雪の上を歩いているような錯覚さえして朝日に輝いてと
てもきれいである。蓮華岳の頂上はゆったりとした感じの東西に長く、信濃大
町にある神社の奥宮が祭られている。お目当てのコマクサはあちらこちらに小
さい花をつけて白い砂の間に可憐に咲いている。奥宮で安全登山と健康の祈願
をして蓮華岳を後にする。頂上からルートは直角に曲がって南に向かう。

 これから通称「蓮華の大下り」と言われる所でザラザラと崩れるような斜面
をジクザクに下る。この蓮華岳は針ノ木岳の方から見ると優しい優美な山容で
あるが、こちら側の方は荒々しく大きな岩がゴロゴロとしていてその様子は一
変してしまう。しばらくすると稜線上に岩峰があり、コースはこの岩峰の右側
を巻いて行く。この当たりになると稜線は狭く岩稜帯になって大きな岩が続い
て気が抜けなくなってくる。やがて朽ちた梯子やクサリのとりつけてある場所
を緊張しながら通過する。この岩場の所でうかつにも私が拳ぐらいの落石をし
てしまった。「ラク・・・・!!」と叫んだが間に合わずに妻の足の臑にぶつ
けてしまった。5メートルぐらいの感覚で歩いていたのだが、かなりの衝撃だ
ったようで大分痛かったらしく懸命に痛みをこらえていた。 m(__)m マア、
幸にも妻で良かったがこれが他人だったら大変な事になっていたと思うとこれ
からのルートは危険個所の連続なので歩き方には十分に注意しなくてはと心に
カツを入れる。

 やっとそんな岩稜帯を下りきると北葛乗越の狭い広場に出た。ここで一本立
ててこれからの急登に備えて水分の補給やチョコレートなどを食べて英気を養
う。乗越からは急登を一登りで緩やかな稜線になる。正面に3角形をしたきれ
いな北葛岳を見ながらゆっくりと登って行く。やがてハイマツの間から頂上に
出る。北葛岳の頂上はハイマツに囲まれており360度の展望が楽しめる。ル
ートはここから直角に曲がって西に向かい七倉乗越に下る。この下りには頼り
にならない木の梯子があり、乗越を過ぎると鉄の梯子が七倉岳側にかかってい
る。七倉岳への稜線はナイフエッジになっており、左の七倉沢側がスパッと切
れているのでそろそろと歩いて行く。そんな緊張をしながらやがて南北に長い
七倉岳の山頂に飛び出た。ここまで来れば後は船窪小屋までは30分ぐらいな
のでホッとしてドカッとザックの上に腰かけて冷たいポカリスエッとを飲む。

 稜線を南に緩やかに下ると船窪小屋に出た。小屋はとてもロケーションの良
いところに建っており、不動沢を境にして明日歩く船窪岳、不動岳の稜線が一
望できその大きく白く崩れた斜面が不気味である。遠望すれば槍ヶ岳、立山、
薬師岳、赤牛岳等々の北アルプスの峰々がその雄姿を見せている。早速冷たい
ビールを飲んでそんな自然と一体になって疲れた身体を休める。赤蜻蛉が涼風
に気持ちよさそうに飛んでいる。さすがに難所にある山小屋だけに登山者も少
なく10人ぐらいで和気藹々と温かいコロッケに舌鼓を打って満足した気分で
夕食を取る。

08/09

 今日のルートは今回の縦走中で最も長く危険なと頃なので、3時30分に起
床して少しでも時間のゆとりを取るためにまだ暗いうちに行動を起こすことに
した。 船窪小屋から七倉岳に向かい、 右への頂上への分岐と分かれて左に進
む。七倉岳の不動沢側を巻くようにしてしばらく行き、見事なダケカンバのあ
る林を過ぎてテント場に出る。

 テント場から少し行くと道は稜線に出て、船窪乗越まで下って行く。稜線ま
では潅木の林になっているが稜線の左側はスパッと白く切れ落ちている。船窪
乗越に着き朝食を取ってこれからの急登に備えて腹ごしらえをする。乗越から
は針ノ木谷への道が出ているが、覗くと相当に荒れているようである。岩稜を
第1ピークまで梯子やクサリ場をまるで這いあがるようにして登って行く。3
点確保のきつい登りで左を見ると不動沢にスパッと切れ落ちているので否が応
でも緊張をする。今度はコルまで下って急登が続く第2ピークを目指すここの
ルートは左側に花崗岩が白くスパッと一気に切れ落ちているので心経を一番使
うところである。続いて梯子で下り稜線の右側に出て砂地で滑りやすいザレ場
をへつるようにして通過する。ここではロープが切れているので斜面に慎重に
足を置いてそろそろと歩くが途中で浮き石がゴロゴロと落ちていったときには
顔が青くなった。第3ピークからはなだらかな下りであるが、下りきったコル
からは約30分の急登で船窪岳の三兆二出る。到着した登山者がみんなホッと
している。ここの山頂は樹林の中で展望はない。

 ひと休みして樹林の中を下って行く。やがて稜線が狭くなってきて、鞍部か
らは2299Mのピークまでナイフリッチの稜線が続く。特に鞍部の左は垂直
に切れ落ちて、右は潅木があるだけで狭い岩稜が5メートルほども続くとても
緊張をするところである。又、今度は樹林の中を過ぎて2341Mのピークの
やや広いところに出る。ここで水分を補給して一本立てる。ここからは稜線は
左に切れ落ちており、崩壊が続くので稜線は右の方によってきており自然の営
みの凄さに驚く。一体10年もしたら崩壊が進んで登山道がどうなっているの
か想像もつかない。ここら当たりが一番の難所であろうか足が緊張で強ばって
いるようで右の潅木に捕まってそろそろと歩く。道は稜線から少し離れた樹林
の中をまっすぐに登ってい行く。やがて大きな岩を右に巻くようにして不動岳
の頂上に出る。不動岳の頂上は南北に広く一番南が広くなっており、ここでゆ
っくりと休んで緊張を解してオレンジや水を補給する。不動沢を挟んで七倉岳
と船窪小屋が見える。立山や剣岳がそのドデカイ山容を美しく見せている。こ
こは今までの疲れをとるまさに別天地である。

 ここから不動岳から南沢岳の鞍部までは、ハイマツと草地の中を下り、左が
ガレている稜線を南沢岳へと登って行くが不動岳の稜線ほどは緊張をしなくて
歩ける。もうここまで来ると身体はヘトヘトに疲れており南沢岳の登りが堪え
てくる。頂上かと思って登ってみるとまだその先なのでガックリしてヨロヨロ
と登って行く。やっと白い砂地の南沢岳に到着して水をゴクゴクと飲んで一息
入れる。 ここからの下りは今までのきついコースが嘘のようで緩やかな下り
を、正面に烏帽子岳を見ながら広い平らな稜線を行き、池塘が点在する四十八
池を過ぎる。ここらは御花畑になっており、ウサギギク、シナノキンバイ、ヒ
メシャジン、真っ青なトリカブト等々高山植物が咲き乱れている。やがて緩や
かな登りになって烏帽子岳の分岐に出る。烏帽子岳は以前に来ているのでパス
して小屋に向かう。ここから偽烏帽子岳を最後の力を振り絞って登り白い砂の
道を下ると烏帽子小屋に到着した。「ヤッターーー・・・!!」ザックも置く
のももどかしく早速冷たいビールヲ五臓六腑に流し込む。ここは大勢の登山者
が思い思いにくつろいでいる。野口五郎岳方面から来た登山者やブナダテ尾根
から来た人達で賑やかである。小屋もそんなにきつい思いをしないで寝ること
が出来てまずまずであった。

08/10

 今日はブナダテ尾根を下るだけなので気持ちも安心していられる。小屋で知
り合った二人の登山者と高瀬ダムからのタクシーの相乗りを約束してブナダテ
尾根を下って行く。樹林帯の中を白い道を下って行く。来たアルプスでも有数
な急坂の一つの急下降を快調に下って行く。歴史のある尾根だけに道はとても
踏まれており歩きやすい。3角点を過ぎて少し下ると左側がガレた所に出る。
「ゴンタ落とし」の大きな岩を過ぎてぐんぐんと下っていく。大きなブナの林
が続いてこの当たりから道は尾根から山腹に下りジクザクに下るようになる。
濁り沢の白い見えてくると崖プチにつけられている梯子で河原に降りる。よう
やくブナダテ尾根の登山口に到着した。タクシーの相乗りを約束していた二人
の登山者が待っていて「おつかれさんでした」と声をかけてくれた。思ったよ
りも早く下れたのでそんなに待たせなくて良かった。

 不動沢を吊り橋で渡って対岸に出る。しかし、この河原は真っ白でとてもき
れいで砂がキラキラと光っている。 不動沢トンネルを抜けると高瀬ダムにで
る。すでにタクシーが数台客待をしていたのでそれに乗り込んで一路大町温泉
の「薬師の湯」に向かう。この薬師の湯でまずビールを飲んでゆっくりと露天
風呂に入って今回のきつかった縦走のコースを思い出しながら、暫し至福の時
を十分に満喫し今年の夏も終わったとしみじみ思った。  オシマイ