いわゆる現代病 花粉症 かふんしょう Pollinosis 花粉が原因となっておこる季節的なアレルギー性疾患。 毎年きまった季節に、くしゃみや鼻水がでたり、目がかゆくなる人がいる。このような症状は古代ローマ時代から知られていたが、空中をただよう花粉が原因であることがわかったのは、19世紀にはいってからで、日本でこの病気が知られるようになったのは戦後のことである。原因となる花粉にはさまざまなものがあるが、日本ではとくに、スギとブタクサがよく知られている。スギのような樹木の花粉は春先、ブタクサなどの草の花粉は夏の終わりから秋にかけてとぶことが多く、その時期しか発病しない。花粉症は体質として遺伝する傾向がある。 花粉が鼻や目やのどの粘膜につくと、それを抗原として、IgEという抗体ができる。IgE抗体は、特定の細胞(肥満細胞)にくっつくが、この細胞には、炎症をおこすヒスタミンなどの化学伝達物質がつまっている。そこへふたたび同じ抗原である花粉がはいってくると、肥満細胞の膜の上に並んでいるIgE抗体にむすびつく。その刺激によって肥満細胞はこわれ、中からヒスタミンがでてくる。このヒスタミンが、血管や腺を刺激し、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、涙、のどのかゆみ、咳などの症状をおこす。消化器症状や、脱力感、発熱などがみられることもある。花粉症は大気汚染と関係がふかく、汚染のひどい地区では花粉症の発症も多く、逆に汚染されていない地区では発症は少ない。いろいろな調査研究から、最近では、とくに自動車、それもディーゼル車の排気ガスにふくまれる微粒子が、IgE抗体をふやすのではないかという説が有力になっている。 どの植物の花粉が抗原であるかをしらべるには、患者の皮膚にさまざまな花粉のエキスを貼布するパッチテストなどの検査がおこなわれる。皮膚が赤くはれた場合は、その花粉が抗原であることがわかる。 治療は症状に応じて、抗ヒスタミン薬を内服したり、ステロイドなどのスプレー式点鼻薬、目薬をもちいる。花粉の季節がくる前から抗アレルギー薬を内服すると、症状が軽くなる。また、原因をのぞく方法としては、減感作療法をおこなう。これは、抗原となる花粉のエキスを注射するもので、ごく少量からはじめて少しずつ量をふやす。しかし、この方法は2〜3年つづけないと、ある程度の効果があらわれない。 私たちの体は、病原微生物(→ 微生物)やその毒素(抗原)などに接触すると、抗体(血清中に存在するグロブリンとよばれるタンパク成分の一種)をつくり、これらの病原物質に対抗する。このため、これらの病原物質にふたたび接しても、発病することはない。予防接種はこの原理を利用して防御抗体をつくり、重い病気からのがれようとする医療技術である。 健康な人ならだれでもこのような防御抗体をつくることができるが、ある種の人は、有害な物質と無害な物質を識別する能力を欠くことがある。このような人は、1種類あるいは多くの無害な物質があたかも病原物質であるかのように抗体がつくられたり、これらの物質を認識する白血球が反応してしまう。この状態を感作という。そしてふたたび同じ物質が体内にはいってくると、免疫系が反応してしまう。これがアレルギーである。アレルギーとは、免疫系が「誤った方向に進んだ状態」と説明する研究者もいる。 アレルギー疾患がおこるかどうかは、遺伝的な体質にも左右され、通常は無害な物質に対して、免疫系が反応しやすい場合をアトピー体質とよんでいる。→ アレルギー・マーチ 症状 湿疹(丘疹の症例) 湿疹の症状は、皮膚が赤みをおびた状態(紅斑)から発疹が皮膚面から隆起した丘疹にいたる。多くは紅色をおびており、ふつう半球状ないし扁平状に皮膚からもりあがる。大きさは留針の頭ほどからエンドウマメほどの大きさまであり、1cm以上大きなものは結節とよばれる。Corbis/Lester V. Bergman アレルギーの症状は、アレルギー反応がどの場所で生じるかに左右される。鼻でおこれば、くしゃみや鼻水がでて鼻炎をひきおこす。気道では、喘息(ぜんそく)にみられるように気管を収縮させて、喘息と咳(せき)、呼吸困難をひきおこす。皮膚では、かゆみ、湿疹、丘疹、紅斑などをおこす。循環血液の中でおこれば、血清病とよばれるはげしい反応をひきおこす。この反応をひきおこす抗原(アレルゲン)は、通常、タンパクかタンパク?糖複合体である。これらは、ハウスダストとか花粉のように吸入されたり、卵や甲殻類のように食品として体内にとりこまれたり、ペニシリンのように注射されたり、ウールの毛布やセーター、粘着テープや金属のようにたんなる接触によって反応をひきおこす。 原因と診断 アレルゲン アレルギー反応をひきおこす物質で、花粉、ハウスダスト、ダニがよく知られる。 チリダニ 大きさ0.5mm以下のひじょうに小さなチリダニ科のダニで、コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニが知られる。鳥類や哺乳類に半寄生し、ふけなど人間や動物の皮膚から剥離(はくり)したものを食べる。チリダニの排泄物には消化酵素がのこっており、それが喘息などのアレルギーをひきおこすといわれている。 ハウスダスト どれほどきれいにしていても、家の中にはハウスダストがある。ハウスダストはアレルギー疾患の最大の原因である。写真の細かいほこり(100倍以上に拡大)には、布くず、人間や動物の皮膚、食べ物のくず、細菌、チリダニなどがふくまれている。 アレルギー反応のメカニズムは、完全に明らかにされているわけではないが、一般に次のように考えられている。抗原はまず特定の組織、たとえば鼻腔や気管支の上皮細胞に固着する。この抗原は、白血球の一種であるマクロファージ(大食細胞)などに食べられる。マクロファージはこれを処理して、その細胞膜上に抗原情報(処理されたタンパク)と自身のHLA抗原を1セットにして提示する。HLA抗原は、自分が抗原提示細胞であることを証明する身分証明書のようなものである。ついで、やはり白血球の一種であるT細胞(Tリンパ球)が、この抗原情報をうけとる。そしてT細胞は、B細胞(Bリンパ球)に情報をつたえ、抗原をつくらせる(→ 免疫系)。 このときできた抗体は、体内のあちこちにある肥満細胞と結合する。これが感作状態である。ふたたび抗原が体内に侵入すると、この肥満細胞の膜の上にびっしりとくっついた抗体と結合する。その信号は肥満細胞の中につたえられて、細胞内の顆粒にたくわえられていたヒスタミンなどが放出される。また、細胞膜の脂肪からロイコトリエンなどがつくられて、周囲の組織を刺激する。このときあらわれるアレルギー症状が、即時型の反応である。やがてアレルギー反応が生じた場所には、好酸球などさまざまな細胞があつまってきて、遅発型のアレルギー反応をひきおこす。 アレルギーの臨床検査 アレルギー反応をしらべる臨床検査の例。この検査では、長いピペットをもちいて組織培養皿にピンクの試薬をくわえている。 アレルギーにはいくつかのタイプがあるが、上述のように抗体が大きな役割を占めるアレルギー反応をI型アレルギーという。ある種のアレルギー反応では、抗体が関与せず、抗原情報をうけとったT細胞が活性化して、直接抗原物質を処理しようとし、周囲に炎症を発生させることもある。 アレルギーをおこす物質はさまざまで、ほぼ無限にある。診断としては、その人が過敏になっている(過剰に反応する)特定の物質を発見することが重要である。アレルギー反応がおこる経緯について注意深く観察することが、その手がかりになる。とくに季節性があるか、どういう物質に接したときに発生するか、特定の場所だけにおこるかどうかなどに注意する。うたがわしい抗原を皮膚に滴下したり接種して反応をみたり、血液中にアレルギーがあればふえてくるIgE(免疫グロブリンE)抗体を測定したり(RIST検査)、特定の物質に結合する血液中のIgE抗体(特異抗体)を測定(RAST検査)して診断する方法もある(→ ラジオイムノアッセイ)。 治療法 もっとも単純ですぐれた治療法は、動物の毛や特定の花粉、食品、薬物などアレルゲンとの接触をできるだけさけることである。しかし、アレルゲンがよくわからないとか、ハウスダストや花粉のようにどこにでもある場合はさけにくい。 このような場合は、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬などの薬剤を使用するか、重い場合はステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)をもちいて反応をおさえる。そのほか、うすめた抗原を少量ずつ接種して体をならし、抗原に対して免疫学的寛容状態を成立させ、反応をおこさないようにする減感作療法がおこなわれることもある。喘息では気管支を弛緩(しかん)させる薬物、鼻アレルギーでは粘膜のうっ血や炎症をおさえる薬、湿疹ではかゆみをとめる軟膏(なんこう)など対症療法が有効な場合もある。→ 気管支喘息:蕁麻疹:花粉症 アレルギーの患者の中には、いままでなやまされてきた過敏症がきえても、新しい過敏症がでてくる人もある。たとえば、小児期のアトピー性皮膚炎がしだいにきえていっても、思春期・青年期になると、気管支喘息や鼻アレルギーが生じることもある。しばしば感情的な葛藤から生じる心理的要因が重要な役割をはたすので、心理面でも注意が必要である。 症状は風邪と似ている。のどの痛み、筋肉痛、関節痛などがあり、集中力が低下し、強い疲労が何カ月もつづく。ときには短期間だが記憶がなくなることもある。この病気が発見されたのはアメリカ合衆国のある町で、風邪と症状が似ているため、はじめは軽く考えられていたが、同じ症状をうったえる人が次々とあらわれ、やがて新しい病気ではないかとうたがわれるようになった。しかしこのときは新しい病気とはみとめられず、発見から数年たって、慢性疲労症候群(CFS)として認定された。 CFSは家族の中で多く発生しており、また、日本の場合は集団発生はないが、欧米では集団発生している。伝染性の病気とも考えられるが、原因はわかっていない。症状は、悪化する人もいれば、少し回復する人、完全になおる人などさまざまで、病気の進み方や再発するかどうかもわかっていない。ただ最近、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)やエンテロウイルスなどのウイルスが関係しているのではないかという説がある。 診断は、日本では厚生労働省がアメリカにならって診断基準をだしているが、アメリカの診断基準はいまだに論議をよんでいる。その症状が、ほかの病気によるものではなく、CFSだけによるものであると判断するのはひじょうにむずかしい。今のところ、はっきりした治療法がないという状態である。 Asthma 気管支が急にせまくなるためにおこる発作性の呼吸障害。おもな原因はアレルギーで、ほこり、動物の毛や羽、かび、ダニ、花粉、食物、薬などがアレルゲンとなる。大人の喘息にはアレルギー性のものは少なく、呼吸器の感染や精神的なストレスによるものが多い。アレルギー性の喘息はアトピー型または外因型ともいわれ、小児の喘息にくらべ、季節の変わり目や急激な気候の変化に影響をうけやすい。アレルギーによらないものは内因型で、両者が関係するものは混合型といわれる。また、気管支喘息の患者の気道は、刺激をうけると容易に収縮し、気道過敏性がみられる。 症状 気管支喘息の症状は個人個人でことなり、発作のおこる回数もさまざまだが、発作が突然おこるのが大きな特徴である。典型的な発作は夜間におこるもので、突然息がくるしくなり、呼吸のたびにゼーゼーという音をたてる。やがてかわいた咳(せき)や痰(たん)が出るが、この痰ははきだしにくい。さらに呼吸がくるしくなると横になっていられなくなり、すわらないと呼吸できなくなる(起坐呼吸)。発作はふつうは一時的なもので、気管支拡張剤を吸入すればはやくなおる。軽いものなら治療をしなくても、2〜3時間後にしめった咳になり、大量の痰をはいて発作はおさまる。しかし重症の場合は呼吸困難が何日もつづくことがある。その場合は入院して点滴したり、気管に管をいれて人工呼吸器を接続する。発作を予防する抗アレルギー薬もあるが、すぐには効果はあらわれない。発作は、数時間後または数日後にふたたびおこることもあるし、長期間、場合によっては何年間もおこらないこともある。子供の喘息はふつう成人するころにはなおる。 予防と治療 現在、気管支喘息の効果的な予防薬として、吸入ステロイド薬がつかわれている。気管支喘息は、気管支の慢性的な炎症と深く関係しており、これまでは抗炎症薬として即効性のあるステロイド剤(→ ステロイド)が注射薬や内服薬としてもちいられてきた。しかし、長期の使用によって副作用が生じたり、ステロイド依存性になることがあった。そこで開発されたのが吸入ステロイド薬である。注射薬や内服薬とちがって即効性はないが、1〜2週間で効果があらわれ、副作用もほとんどなく、ほかのステロイド剤をつかわなくてすむようになる。効果があらわれるまでの期間を考慮にいれ、予防的にもちいれば、気管支の炎症をおさえ、発作をおこしにくくすることができる。 なお、気管支喘息の治療に関しては、1993年(平成5)以来、日本アレルギー学会や厚生労働省などで診療ガイドラインが作成されている。ガイドラインでは、喘息の危険因子をさけるよう日常生活に配慮し、安全性の高い薬物療法をおこない、健常人と同様の日常生活をおくり、喘息死をおこさないようにすることを、治療の目標としている。日本の喘息による死亡者数はかなりへってきているが、ガイドラインで吸入ステロイド薬が推奨されたことも、その理由のひとつと考えられる。 アレルギー性喘息の治療 アレルギー性の喘息をなくすには、原因となるアレルゲンをとりのぞくことが、いちばんよい方法である。動物の毛や羽がアレルゲンとなる場合は、ペットをかうのをやめたり、羽根枕をつかうのをやめたりすればよいが、花粉やかびなどは完全にとりさることができない。日本ではとくにかびやダニによる喘息が多いので、減感作療法をおこなうこともある。これは原因となるアレルゲンをごく少量ずつ定期的に注射して、体をアレルゲンにならそうとするものである。この方法は、発病したらなるべくはやくおこなうとよいが、数年間つづけなくてはならず根気が必要である。 |